(どんな装飾が良いのかしら)
芙月の頭の中は、近頃この話題で埋め尽くされていた。
帝が信じて任せてくれた役割を、完璧にやり遂げたい、喜んでもらいたいと思えば思うほど良い案が浮かばない。
装飾は特に規定はない。華やかであれば何を使っても良いし、どんなものでも良いらしい。
(せっかくなら花は使いたいわね。私も好きだし、何より主上さまもお好きだし…… そういえば主上さまは何のお花が一番好きなのかしら)
花の肥料がなくなり、一人倉庫に向かっていた芙月は漠然とそんなことを考えながら歩いていた。
倉庫は裏寂しい場所にある。昔はこの付近に処刑場があったというが、今の帝の代になってからは使われなくなり、そこだけ昔に取り残されているような雰囲気だった。
怖々と進み、目当てのものを手に入れた芙月は足早に来た道を引き返した。すると、一つの倉庫の影に明るい紫色の揺れる何かを見つけた。
「何かしら……?」
吸い寄せられるように近づけば、そこにあったのは紫色の薫衣草だった。
「紫の花、久しぶりに見た気がするわ」
よく思い返せば、あれだけ色彩豊かな花で溢れているにも関わらず、紫の花は後宮に一つもなかった気がする。紫が支流とされている三色菫や夏の朝顔も、紫以外の花が並んでいた。
(それにしてもこんな日当たりが悪い場所だと綺麗に咲けないわね。燈花宮に持ち帰って植え直しましょう)
薫衣草からは良い香りがたっている。それを堪能しながら根元を掘り起こし、優しく茎を持って土からあげようとした時――
『ごめんね、本当にごめんね』
胸が締め付けられるくらいの悲痛な声が花を通して伝わった。
その悲しげな声に思わず伸ばしていた手を引く。
(今のは……誰の声?)
女の人の声だった。凛とした美声。
しかしその声は微かに震え、泣いているようにも聞こえる。
(何かとても辛くて、悲しいことがあったのね……)
こんなところに一人でいて、寂しかっただろう。芙月の胸が痛んだ。
(私が仲間を増やしてあげるわ。そして、あなたの謝っている理由も頑張って探ってみるから)
芙月一人でできることなんてたかが知れている。
でも、こんなに辛そうに過去を告げる花は出会ったことがなかった。
――自分にできることを、やってあげたい。
そんな気持ちが湧き上がり、芙月は再び薫衣草に手を伸ばした。
『守れなくてごめんね……愛しているわ……』
誰かが自分を責め謝る声が響く中、
『誰か、彼女の思いを繋げて……』
そう告げる花の声が重なって聞こえた。

