首切り執行人と傷ありの花嫁~死神と恐れられる年下の旦那様は思っていたより可愛らしくて愛は重めでした~

 たすき掛けされた黒い着物の袖から細い腕が覗く。その腕はせわしなく動き、味噌汁、白米、卵焼きと、次々に料理を作り上げていった。
 眞白から贈られた着物に身を包むようになって、一ヶ月経つ。日々の生活は、平穏すぎるほど平穏だった。
 しいて問題をあげるとすれば……

「すーみさんっ」
「わっ⁉」

 後頭部に受けた衝撃に思わず声をあげる。が、決して痛みがあるわけではなく、犬猫が突進してきたほどの強さだ。

「……眞白様、料理中はくっつかないようにと言いましたよね」
「うん、だから後頭部にすり寄ってるだけ」
「……」

 名案だとばかりに言われる理由に、墨は何も言えなくなってしまう。

(後頭部も駄目って言わなかったわたしも悪いな、これは)

 そう、しいて問題をあげるとすれば――常時、眞白が引っついてくることくらいだろう。
 彼の感情を受け止めてからというもの、いつだって墨の隣にいるようになってしまったのだ。

 仕事へは「いってらっしゃい」によってどうにか行かせられるが、それ以外は駄目だ。料理中はもちろん、掃除や洗い物の最中も必ず近くにいる。手伝ってくれるため助かってはいるのだが、〈首切り執行人〉としての務めもあるので、できるときに休んで欲しいというのが本音だ。

 実際にそう伝えたこともある。しかし眞白は、

「墨さんの一挙手一投足を見て、同じ空気を吸うことが俺の休みになるんだよ。くっついていられればなお良しってところかな」

 と、無邪気な笑みを浮かべて言っていた。
 考えずとも、重すぎる気持ちを向けられているであろうことはわかる。

(でも、その重たい感情が嫌ではないんだよなぁ)

 しあわせが何なのか、墨にはまだわかっていないが、眞白から与えられる感情や体温は心地いい。それに、彼がしあわせだと口にするたびに、胸から胃にかけてがふわふわする。

(この人の隣でなら、しあわせが何かわかる日がくるかもしれない)

 淡い期待を胸に、墨は旦那様の温度を感じた。