2024年12月20日 投稿
追加の情報公開請求の結果が届きました。
前回、桐生氏の第三通の抗議文に「野口健一さん、藤川美咲さんも近く市に意見書を提出する予定です」とあったので、この二人の名前で提出された文書を請求していました。
結果は、二通とも存在しました。ありました。
封筒を開けて、コピーを一枚ずつ確認しました。
野口健一名義の意見書が一通、藤川美咲名義の意見書が一通。どちらも平成二十年の日付です。受付印の日付は野口氏が五月八日、藤川氏が七月二十二日。二ヶ月半の間隔を置いて、別々の日に提出されています。市役所の受付印には、受付番号と担当者の印も押されていて、番号が飛んでいます。間に別の文書が受理されているということでしょう。
順に紹介します。
まず、野口健一氏の意見書。これまでの書面と大きく違う点が一つあります。手書きではなく、ワープロ打ちです。本文はA4用紙二枚にプリントされており、末尾の署名と日付だけが手書きでした。差出人住所はs山市丸子南████番地。
この文書を最初に見たとき、桐生氏や山際氏の手書きの文書とは全く質感が違うことに驚きました。プリンターの活字は均一で、感情の温度がない。フォントはMS明朝体。行間は一定。余白も揃っている。行政の内部文書に慣れた人間が書いた文書だと一目でわかります。
ただ、末尾の署名だけが手書きです。「野口健一」の四文字。黒のボールペンで、筆圧の強い、角ばった字でした。ワープロの活字と手書きの署名が並んでいると、署名だけが別の温度を持っている。機械の中に人間が一箇所だけ顔を出している。
全文を転記します。
"私はm山市の元職員です。平成十四年三月に退職するまで、観光課に十五年間勤務しておりました。在職中、丸子湖周辺の観光振興に携わった経験から、現在の計画について意見を述べます。
丸子湖の観光資源としての価値は、私が在職していた当時からすでに認識されておりました。しかし、その振興のあり方については、常に慎重な議論が求められてきました。周囲四キロの小さな湖に大規模な施設を建設すれば、この場所が持つ静謐さは失われます。観光課の内部でも、開発の規模については意見が割れておりました。
丸子湖の観光振興は、もともと地元の個人事業者の努力によって少しずつ形になってきたものです。行政はそれを後押しする立場であったはずです。その行政が、今度は大規模施設の誘致によって個人事業者を圧迫しようとしている。これは観光振興の本来の趣旨に反します。
また、本計画に係る補助金の執行過程に不透明な点があります。用地造成に関する指名競争入札(m山市契約第████号)において、参加業者の選定基準が公開されていません。市の内部規定(m山市契約事務取扱規則第██条)では選定基準の公開が義務づけられていますが、これが遵守されていない可能性があります。
さらに申し上げれば、本計画の策定過程において、観光課OBとしての意見を求められたことは一度もありません。十五年間の現場経験を持つ退職者の声を聞こうとしないこと自体が、この計画の性急さを物語っていると考えます。
退職した身ではありますが、あの湖に関わった者として、見過ごすことはできません。あの湖を見ていると、自分が何者であるかなど忘れてしまいそうになる。それほどの場所を、このような形で失うわけにはいかないのです。"
読んでいて、この人は本物だな、と思いました。「s山市契約第████号」「契約事務取扱規則第██条」。番号は黒塗りですが、こういう書き方は行政の内部をよく知った人間でないとできません。
次に、藤川美咲氏の意見書。こちらも手書きで、筆圧の強い、角ばった字でした。ただし文体は前の三人とは全く違います。
全文を転記します。
"私は丸子湖の近くに住んでいる者です。観光開発計画のことで意見があります。
去年の暮れくらいから、湖の南のほうで工事が始まって、毎日トラックが何台も通ります。道がせまいのですれちがいが怖いです。子供がいるのでほんとうに心配しています。
市に電話したら、「工事は適切に管理されている」と言われました。でも適切かどうかを決めるのはそちらではなくてこちらだと思います。実際に暮らしている人間の感覚と、書類の上での「適切」はちがいます。
あと、工事のせいなのかわかりませんが、最近、湖の水がにごっている日があります。子供が「湖がきたない」と言ったときは、すごく悲しかった。水鏡が子供の一番好きな景色だったのに。前はもっと透き通っていました。あの湖を見ていると、自分が何者であるかなど忘れてしまいそうになるほどに。
それから、夜も工事の音がすることがあります。重機の音なのか何なのか、低い振動みたいなのが伝わってきます。子供が怖がるのでやめてほしいです。
そもそもこの開発って誰のためなんですか。湖のそばに暮らしてる私たちの声って、届いてますか。あの静かな湖を守りたいって思うのは、ふつうのことだと思います。あの湖を子供にもあの景色を残してあげたいです。"
四者四様です。書いている内容の角度も、行政内部の契約手続きへの疑義から、子供の通学路の安全まで、幅がある。それだけ多くの立場の人が同じ計画に疑問を感じていたということなのでしょう。桐生氏は孤立していたわけではなかった。
もう一つ気になったことを書いておきます。藤川氏の意見書に「子供がいる」という記述があります。丸子湖の近くに子供と暮らしている人がいたということです。ただ、あの場所で子供を育てられるのだろうか、と少し疑問に思いました。最寄りの学校はどこなのか。あの山道を毎日通学するのか。冬場は路面が凍結するはずです。コンビニもスーパーもない。小児科もない。s山市の中心部まで車で三十分以上かかる。子育てにはかなり厳しい環境です。スクールバスがあるのか、それとも町場に住居を持っていて湖畔には別荘のように来ているだけなのか。次にs山市に行くときに確認してみます。
次回は桐生氏の第四通、第五通を紹介します。最後の二通です。
一つだけ書き添えておきます。昨夜、夜中に目が覚めると、テーブルの前に座っていました。ベッドの上ではなく。資料が広げてありました。手にペンを持っていました。ノートが開いていて、何か書きかけてある。暗くてよく見えなかったのですが、自分の字のようでもあり、違うようでもありました。ペンを置いて、布団に戻りました。翌朝見ると、ノートのそのページには何も書かれていませんでした。
コメント欄
名無しの旅人 2024/12/20 22:04 元市職員が入札の不透明さを指摘してるのは大きいですね。これは調べる価値がありそう。
地方行政ウォッチャー 2024/12/21 08:15 契約事務取扱規則の条番号まで引いているとは。この意見書は行政にとってはかなり痛い内容だと思います。
sss 2024/12/21 17:45 お子さんがいる方もいたんですね。知らなかったです。
管理人 2024/12/21 20:12 色々な立場の方がいたようです。次回、桐生氏の最後の二通を紹介します。
追加の情報公開請求の結果が届きました。
前回、桐生氏の第三通の抗議文に「野口健一さん、藤川美咲さんも近く市に意見書を提出する予定です」とあったので、この二人の名前で提出された文書を請求していました。
結果は、二通とも存在しました。ありました。
封筒を開けて、コピーを一枚ずつ確認しました。
野口健一名義の意見書が一通、藤川美咲名義の意見書が一通。どちらも平成二十年の日付です。受付印の日付は野口氏が五月八日、藤川氏が七月二十二日。二ヶ月半の間隔を置いて、別々の日に提出されています。市役所の受付印には、受付番号と担当者の印も押されていて、番号が飛んでいます。間に別の文書が受理されているということでしょう。
順に紹介します。
まず、野口健一氏の意見書。これまでの書面と大きく違う点が一つあります。手書きではなく、ワープロ打ちです。本文はA4用紙二枚にプリントされており、末尾の署名と日付だけが手書きでした。差出人住所はs山市丸子南████番地。
この文書を最初に見たとき、桐生氏や山際氏の手書きの文書とは全く質感が違うことに驚きました。プリンターの活字は均一で、感情の温度がない。フォントはMS明朝体。行間は一定。余白も揃っている。行政の内部文書に慣れた人間が書いた文書だと一目でわかります。
ただ、末尾の署名だけが手書きです。「野口健一」の四文字。黒のボールペンで、筆圧の強い、角ばった字でした。ワープロの活字と手書きの署名が並んでいると、署名だけが別の温度を持っている。機械の中に人間が一箇所だけ顔を出している。
全文を転記します。
"私はm山市の元職員です。平成十四年三月に退職するまで、観光課に十五年間勤務しておりました。在職中、丸子湖周辺の観光振興に携わった経験から、現在の計画について意見を述べます。
丸子湖の観光資源としての価値は、私が在職していた当時からすでに認識されておりました。しかし、その振興のあり方については、常に慎重な議論が求められてきました。周囲四キロの小さな湖に大規模な施設を建設すれば、この場所が持つ静謐さは失われます。観光課の内部でも、開発の規模については意見が割れておりました。
丸子湖の観光振興は、もともと地元の個人事業者の努力によって少しずつ形になってきたものです。行政はそれを後押しする立場であったはずです。その行政が、今度は大規模施設の誘致によって個人事業者を圧迫しようとしている。これは観光振興の本来の趣旨に反します。
また、本計画に係る補助金の執行過程に不透明な点があります。用地造成に関する指名競争入札(m山市契約第████号)において、参加業者の選定基準が公開されていません。市の内部規定(m山市契約事務取扱規則第██条)では選定基準の公開が義務づけられていますが、これが遵守されていない可能性があります。
さらに申し上げれば、本計画の策定過程において、観光課OBとしての意見を求められたことは一度もありません。十五年間の現場経験を持つ退職者の声を聞こうとしないこと自体が、この計画の性急さを物語っていると考えます。
退職した身ではありますが、あの湖に関わった者として、見過ごすことはできません。あの湖を見ていると、自分が何者であるかなど忘れてしまいそうになる。それほどの場所を、このような形で失うわけにはいかないのです。"
読んでいて、この人は本物だな、と思いました。「s山市契約第████号」「契約事務取扱規則第██条」。番号は黒塗りですが、こういう書き方は行政の内部をよく知った人間でないとできません。
次に、藤川美咲氏の意見書。こちらも手書きで、筆圧の強い、角ばった字でした。ただし文体は前の三人とは全く違います。
全文を転記します。
"私は丸子湖の近くに住んでいる者です。観光開発計画のことで意見があります。
去年の暮れくらいから、湖の南のほうで工事が始まって、毎日トラックが何台も通ります。道がせまいのですれちがいが怖いです。子供がいるのでほんとうに心配しています。
市に電話したら、「工事は適切に管理されている」と言われました。でも適切かどうかを決めるのはそちらではなくてこちらだと思います。実際に暮らしている人間の感覚と、書類の上での「適切」はちがいます。
あと、工事のせいなのかわかりませんが、最近、湖の水がにごっている日があります。子供が「湖がきたない」と言ったときは、すごく悲しかった。水鏡が子供の一番好きな景色だったのに。前はもっと透き通っていました。あの湖を見ていると、自分が何者であるかなど忘れてしまいそうになるほどに。
それから、夜も工事の音がすることがあります。重機の音なのか何なのか、低い振動みたいなのが伝わってきます。子供が怖がるのでやめてほしいです。
そもそもこの開発って誰のためなんですか。湖のそばに暮らしてる私たちの声って、届いてますか。あの静かな湖を守りたいって思うのは、ふつうのことだと思います。あの湖を子供にもあの景色を残してあげたいです。"
四者四様です。書いている内容の角度も、行政内部の契約手続きへの疑義から、子供の通学路の安全まで、幅がある。それだけ多くの立場の人が同じ計画に疑問を感じていたということなのでしょう。桐生氏は孤立していたわけではなかった。
もう一つ気になったことを書いておきます。藤川氏の意見書に「子供がいる」という記述があります。丸子湖の近くに子供と暮らしている人がいたということです。ただ、あの場所で子供を育てられるのだろうか、と少し疑問に思いました。最寄りの学校はどこなのか。あの山道を毎日通学するのか。冬場は路面が凍結するはずです。コンビニもスーパーもない。小児科もない。s山市の中心部まで車で三十分以上かかる。子育てにはかなり厳しい環境です。スクールバスがあるのか、それとも町場に住居を持っていて湖畔には別荘のように来ているだけなのか。次にs山市に行くときに確認してみます。
次回は桐生氏の第四通、第五通を紹介します。最後の二通です。
一つだけ書き添えておきます。昨夜、夜中に目が覚めると、テーブルの前に座っていました。ベッドの上ではなく。資料が広げてありました。手にペンを持っていました。ノートが開いていて、何か書きかけてある。暗くてよく見えなかったのですが、自分の字のようでもあり、違うようでもありました。ペンを置いて、布団に戻りました。翌朝見ると、ノートのそのページには何も書かれていませんでした。
コメント欄
名無しの旅人 2024/12/20 22:04 元市職員が入札の不透明さを指摘してるのは大きいですね。これは調べる価値がありそう。
地方行政ウォッチャー 2024/12/21 08:15 契約事務取扱規則の条番号まで引いているとは。この意見書は行政にとってはかなり痛い内容だと思います。
sss 2024/12/21 17:45 お子さんがいる方もいたんですね。知らなかったです。
管理人 2024/12/21 20:12 色々な立場の方がいたようです。次回、桐生氏の最後の二通を紹介します。
