2024年12月3日 投稿
更新が少し空きました。正直に言うと、前回の現地取材の後からこの件にどう向き合うべきか少し迷っていました。
この間、何をしていたかというと、普通に暮らしていました。買い物に行って、食事を作って、眠って。ただ、どこかで丸子湖のことを考えている。スーパーで山菜を見かけて、桐生氏の山菜の天ぷらを思い出す。そういうことが増えました。
それと、この数日、ときどき湖の匂いがします。水と泥と落ち葉の混じった、あの湖畔の匂い。部屋の中にいるのに、ふと鼻をかすめる。窓は閉まっています。ふっと来て、すぐ消える。
桐生氏の側だけを見ていた自分に気づいたというか。資料を読むと桐生氏に同情的になるし、現地の人の話を聞くとまた違う像が浮かぶ。どちらが本当かはわかりません。わかりませんが、とにかく資料を出していくことに意味はあると思うので、続けます。
今回は桐生氏の第二通と第三通をまとめて紹介します。
その前に一つ。桐生氏が市に提出した文書の表題は、第一通が「意見書」、第二通が「要望書」、第三通以降が全て「抗議文」です。「意見書」から「要望書」へ、「要望書」から「抗議文」へ。表題だけで、この人の中で何かが段階的に変化していったことがわかります。お願いが要望になり、要望が抗議になる。声のトーンが上がっていく。でも相手の対応は変わらない。
この表題の変化を時系列で並べたとき、胸のあたりが冷たくなる感覚がありました。この先、この人はどこまで追い詰められていくのだろう。すでに結末は知っています。廃業。消息不明。廃墟と看板。でも途中の過程を追っていくのは、結末を知っていてもつらい。
まず第二通。平成十八年九月四日付、「要望書」。宛先はs山市長。A4用紙三枚、手書き。
全文は長いので、要点を抜粋します。
"昨年の意見書に対する市の回答では「既存施設との共存・共栄を基本方針とする」「随時ご説明させていただく」とのことでしたが、あれから一年半が経過し、何のご説明もありません。
その間に、湖畔南側の市有地で測量作業が行われているのを確認しました。これは新規施設の用地造成に向けた準備ではないでしょうか。事前に何の説明もなく、既存施設の目の前で測量が始まっている。これが「共存・共栄」なのでしょうか。
(中略)
以下の三点を要望いたします。 一、新規施設の誘致計画の現状について、速やかに書面で説明すること。 二、用地造成に着手する場合は、事前に既存施設の経営者と協議を行うこと。 三、既存施設の営業に支障が生じた場合の補償について、具体的な方針を示すこと。"
前回の意見書と比べると、文面がだいぶ変わっています。「お願いですから」という言葉はもうありません。代わりに「要望いたします」「速やかに」「事前に」。語気が硬くなっている。一年半、何の説明もなかったことへの怒りだろうと思います。自分で書いた意見書を読み返して、「お願い」では何も動かなかったと悟ったのかもしれない。
字もやや乱れていました。第一通と同じ角張った筆跡ですが、行の間隔が不揃いになっていて、一枚目と三枚目で字の大きさが違う。一気に書いたのではなく、何日かに分けて書いたように見えます。
この要望書の中に、一つ気になる一節がありました。
なお、私と同じくこの計画に疑問を持つ住民は他にもおります。山際洋子さんも昨年、市に意見書を提出されたと聞いております。
桐生氏が山際洋子の名前を出しています。自分一人ではない、という主張です。この一文を読んだとき、少しほっとしたような気持ちになりました。桐生氏の周りにも同じ思いの人がいたのだな、と。
ここを読んでいるとき、また匂いがしました。湖の匂い。さっき書いたのと同じ匂いです。今度ははっきりと感じました。紙の匂いの中に、湿った土の匂いが混じっている。数秒で消えました。
市からの回答は、今回も開示文書に含まれていました。平成十八年十月二日付。前回と同じく観光課長名義の定型的な文面で、「測量は基礎調査の一環であり用地造成の着手を決定したものではない」「説明の機会を設けることを検討する」という内容。三つの要望に対する具体的な回答はありませんでした。「検討する」は行政の言葉で「やるとは言っていない」という意味だと、最近わかってきました。
次に第三通。平成二十年二月十五日付、「抗議文」。ここからタイトルが変わっています。宛先は同じくs山市長。A4用紙四枚。
抜粋します。
"平成十九年十二月、丸子湖ホテルに対し、s山市建築指導課より建築基準法に基づく是正勧告が行われました。
勧告の内容は、ホテル三階部分の増築(平成七年施工)について、建築確認申請が行われていないとの指摘です。
しかし、当該増築は平成七年当時、市の担当者に口頭で確認を取った上で行ったものです。当時の担当者の名前は████です。口頭での了承があったことは事実であり、十三年も経ってから是正勧告を出すことは、明らかに不当です。"
読んでいて、空気が一段変わったのを感じました。部屋の温度が下がったわけではないのに、体の芯が冷えるような感覚がありました。
「意見書」「要望書」の段階では、計画への反対が主題でした。言い分が通らなくても、あくまで政策への異議です。けれどもこの「抗議文」は違う。市が自分のホテルを「排除」しようとしている、と桐生氏は受け取っている。計画への反対から、自分への攻撃に対する反撃に変わっている。文章の温度が変わっている。最初の意見書に比べると、字が大きくなっていて、行間が詰まっている。ボールペンの線が太くなっている箇所がある。何度もなぞったのか、力を入れすぎたのか。紙の裏側にまで筆跡が凹んで残っている。怒りが紙に刻まれている。
是正勧告が本当に嫌がらせだったのかどうか、私には判断がつきません。むしろ、前回の現地取材で聞いた話からすると、当然の措置なのかもしれません。十三年前の無届け増築に今さら是正勧告が出るのは確かに不自然な気もしますが、建築基準法違反は違反ですから。市の立場から見れば、把握した以上は勧告せざるを得ないとも言える。
ただ、桐生氏にとっては、タイミングが全てだったのだろうと思います。新規施設の話が進んでいる最中に、自分のホテルに是正勧告。偶然だと思えというほうが無理かもしれない。この人の目には、全てが一つの方向を向いて見えていたはずです。一人で戦い続けている人間が、四方から追い詰められていく。そういう文書でした。読んでいて、胸のあたりが重くなる。
この抗議文の後半に、もう一つ目を引く箇所がありました。
私だけではありません。この計画に疑問を持つ声は、他の住民からも上がっています。野口健一さん、藤川美咲さんも、近く市に意見書を提出する予定です。私たちは連名で計画の中止を求めることも検討しています。
新しい名前が二つ出てきました。野口健一と藤川美咲。山際洋子に続いて、桐生氏の周りにはさらに賛同者がいたということになります。桐生氏は一人ではなかったのだ、と思いました。少なくとも三人の味方がいた。
ただ、この段落を読み返すと、少し気になることがあります。桐生氏は「野口健一さん、藤川美咲さんも、近く市に意見書を提出する予定です」と書いている。「予定です」。まだ提出されていない文書の予定を、桐生氏はどうやって知ったのか。三人が直接会って話し合ったのか。電話で連絡を取り合っていたのか。あの湖畔で顔を合わせる機会があったのか。「私たちは連名で計画の中止を求めることも検討しています」。私たち。桐生氏を含む四人が、共同で動いていた。
この時点では、三人がどういう人物なのか全くわかっていません。ただ、桐生氏が他者の「予定」まで把握しているということは、それなりに密な関係だったということでしょう。一人で戦っているように見えた桐生氏の周りに、仲間がいた。その事実に少しほっとしました。
開示文書をもう一度確認しましたが、この二人の名前の意見書は含まれていませんでした。「提出する予定」とあるので、実際には提出されなかった可能性もあります。あるいは、提出されたが今回の情報公開請求の対象に含まれていなかったのかもしれません。
追加で情報公開請求を出すことにしました。野口健一、藤川美咲の名前で提出された文書があるかどうか。結果が届いたら報告します。
コメント欄
名無しの旅人 2024/12/03 21:55 是正勧告のタイミングは確かに怪しいですね。でもこの手の話って、どっちの言い分も一理あるから難しい。
地方行政ウォッチャー 2024/12/04 07:28 無届け増築の是正勧告は、通報や調査がないと普通は出ません。誰かが通報したのか、市が独自に調査したのかで意味が変わります。
sss 2024/12/04 19:40 野口健一も藤川美咲も聞いたことない名前です。山際さんのときも思いましたけど、あの辺にそんな人いたかなあ。
管理人 2024/12/04 22:18 sssさん、追加の情報公開請求の結果を待ちましょう。実際に意見書が出ていれば住所もわかるはずです。
更新が少し空きました。正直に言うと、前回の現地取材の後からこの件にどう向き合うべきか少し迷っていました。
この間、何をしていたかというと、普通に暮らしていました。買い物に行って、食事を作って、眠って。ただ、どこかで丸子湖のことを考えている。スーパーで山菜を見かけて、桐生氏の山菜の天ぷらを思い出す。そういうことが増えました。
それと、この数日、ときどき湖の匂いがします。水と泥と落ち葉の混じった、あの湖畔の匂い。部屋の中にいるのに、ふと鼻をかすめる。窓は閉まっています。ふっと来て、すぐ消える。
桐生氏の側だけを見ていた自分に気づいたというか。資料を読むと桐生氏に同情的になるし、現地の人の話を聞くとまた違う像が浮かぶ。どちらが本当かはわかりません。わかりませんが、とにかく資料を出していくことに意味はあると思うので、続けます。
今回は桐生氏の第二通と第三通をまとめて紹介します。
その前に一つ。桐生氏が市に提出した文書の表題は、第一通が「意見書」、第二通が「要望書」、第三通以降が全て「抗議文」です。「意見書」から「要望書」へ、「要望書」から「抗議文」へ。表題だけで、この人の中で何かが段階的に変化していったことがわかります。お願いが要望になり、要望が抗議になる。声のトーンが上がっていく。でも相手の対応は変わらない。
この表題の変化を時系列で並べたとき、胸のあたりが冷たくなる感覚がありました。この先、この人はどこまで追い詰められていくのだろう。すでに結末は知っています。廃業。消息不明。廃墟と看板。でも途中の過程を追っていくのは、結末を知っていてもつらい。
まず第二通。平成十八年九月四日付、「要望書」。宛先はs山市長。A4用紙三枚、手書き。
全文は長いので、要点を抜粋します。
"昨年の意見書に対する市の回答では「既存施設との共存・共栄を基本方針とする」「随時ご説明させていただく」とのことでしたが、あれから一年半が経過し、何のご説明もありません。
その間に、湖畔南側の市有地で測量作業が行われているのを確認しました。これは新規施設の用地造成に向けた準備ではないでしょうか。事前に何の説明もなく、既存施設の目の前で測量が始まっている。これが「共存・共栄」なのでしょうか。
(中略)
以下の三点を要望いたします。 一、新規施設の誘致計画の現状について、速やかに書面で説明すること。 二、用地造成に着手する場合は、事前に既存施設の経営者と協議を行うこと。 三、既存施設の営業に支障が生じた場合の補償について、具体的な方針を示すこと。"
前回の意見書と比べると、文面がだいぶ変わっています。「お願いですから」という言葉はもうありません。代わりに「要望いたします」「速やかに」「事前に」。語気が硬くなっている。一年半、何の説明もなかったことへの怒りだろうと思います。自分で書いた意見書を読み返して、「お願い」では何も動かなかったと悟ったのかもしれない。
字もやや乱れていました。第一通と同じ角張った筆跡ですが、行の間隔が不揃いになっていて、一枚目と三枚目で字の大きさが違う。一気に書いたのではなく、何日かに分けて書いたように見えます。
この要望書の中に、一つ気になる一節がありました。
なお、私と同じくこの計画に疑問を持つ住民は他にもおります。山際洋子さんも昨年、市に意見書を提出されたと聞いております。
桐生氏が山際洋子の名前を出しています。自分一人ではない、という主張です。この一文を読んだとき、少しほっとしたような気持ちになりました。桐生氏の周りにも同じ思いの人がいたのだな、と。
ここを読んでいるとき、また匂いがしました。湖の匂い。さっき書いたのと同じ匂いです。今度ははっきりと感じました。紙の匂いの中に、湿った土の匂いが混じっている。数秒で消えました。
市からの回答は、今回も開示文書に含まれていました。平成十八年十月二日付。前回と同じく観光課長名義の定型的な文面で、「測量は基礎調査の一環であり用地造成の着手を決定したものではない」「説明の機会を設けることを検討する」という内容。三つの要望に対する具体的な回答はありませんでした。「検討する」は行政の言葉で「やるとは言っていない」という意味だと、最近わかってきました。
次に第三通。平成二十年二月十五日付、「抗議文」。ここからタイトルが変わっています。宛先は同じくs山市長。A4用紙四枚。
抜粋します。
"平成十九年十二月、丸子湖ホテルに対し、s山市建築指導課より建築基準法に基づく是正勧告が行われました。
勧告の内容は、ホテル三階部分の増築(平成七年施工)について、建築確認申請が行われていないとの指摘です。
しかし、当該増築は平成七年当時、市の担当者に口頭で確認を取った上で行ったものです。当時の担当者の名前は████です。口頭での了承があったことは事実であり、十三年も経ってから是正勧告を出すことは、明らかに不当です。"
読んでいて、空気が一段変わったのを感じました。部屋の温度が下がったわけではないのに、体の芯が冷えるような感覚がありました。
「意見書」「要望書」の段階では、計画への反対が主題でした。言い分が通らなくても、あくまで政策への異議です。けれどもこの「抗議文」は違う。市が自分のホテルを「排除」しようとしている、と桐生氏は受け取っている。計画への反対から、自分への攻撃に対する反撃に変わっている。文章の温度が変わっている。最初の意見書に比べると、字が大きくなっていて、行間が詰まっている。ボールペンの線が太くなっている箇所がある。何度もなぞったのか、力を入れすぎたのか。紙の裏側にまで筆跡が凹んで残っている。怒りが紙に刻まれている。
是正勧告が本当に嫌がらせだったのかどうか、私には判断がつきません。むしろ、前回の現地取材で聞いた話からすると、当然の措置なのかもしれません。十三年前の無届け増築に今さら是正勧告が出るのは確かに不自然な気もしますが、建築基準法違反は違反ですから。市の立場から見れば、把握した以上は勧告せざるを得ないとも言える。
ただ、桐生氏にとっては、タイミングが全てだったのだろうと思います。新規施設の話が進んでいる最中に、自分のホテルに是正勧告。偶然だと思えというほうが無理かもしれない。この人の目には、全てが一つの方向を向いて見えていたはずです。一人で戦い続けている人間が、四方から追い詰められていく。そういう文書でした。読んでいて、胸のあたりが重くなる。
この抗議文の後半に、もう一つ目を引く箇所がありました。
私だけではありません。この計画に疑問を持つ声は、他の住民からも上がっています。野口健一さん、藤川美咲さんも、近く市に意見書を提出する予定です。私たちは連名で計画の中止を求めることも検討しています。
新しい名前が二つ出てきました。野口健一と藤川美咲。山際洋子に続いて、桐生氏の周りにはさらに賛同者がいたということになります。桐生氏は一人ではなかったのだ、と思いました。少なくとも三人の味方がいた。
ただ、この段落を読み返すと、少し気になることがあります。桐生氏は「野口健一さん、藤川美咲さんも、近く市に意見書を提出する予定です」と書いている。「予定です」。まだ提出されていない文書の予定を、桐生氏はどうやって知ったのか。三人が直接会って話し合ったのか。電話で連絡を取り合っていたのか。あの湖畔で顔を合わせる機会があったのか。「私たちは連名で計画の中止を求めることも検討しています」。私たち。桐生氏を含む四人が、共同で動いていた。
この時点では、三人がどういう人物なのか全くわかっていません。ただ、桐生氏が他者の「予定」まで把握しているということは、それなりに密な関係だったということでしょう。一人で戦っているように見えた桐生氏の周りに、仲間がいた。その事実に少しほっとしました。
開示文書をもう一度確認しましたが、この二人の名前の意見書は含まれていませんでした。「提出する予定」とあるので、実際には提出されなかった可能性もあります。あるいは、提出されたが今回の情報公開請求の対象に含まれていなかったのかもしれません。
追加で情報公開請求を出すことにしました。野口健一、藤川美咲の名前で提出された文書があるかどうか。結果が届いたら報告します。
コメント欄
名無しの旅人 2024/12/03 21:55 是正勧告のタイミングは確かに怪しいですね。でもこの手の話って、どっちの言い分も一理あるから難しい。
地方行政ウォッチャー 2024/12/04 07:28 無届け増築の是正勧告は、通報や調査がないと普通は出ません。誰かが通報したのか、市が独自に調査したのかで意味が変わります。
sss 2024/12/04 19:40 野口健一も藤川美咲も聞いたことない名前です。山際さんのときも思いましたけど、あの辺にそんな人いたかなあ。
管理人 2024/12/04 22:18 sssさん、追加の情報公開請求の結果を待ちましょう。実際に意見書が出ていれば住所もわかるはずです。
