m県s山市の悪政を告発します

2025年3月8日 投稿

 s山在住さんからメールをいただきました。長文のメールで、読んでいて少し驚く内容が含まれていたので、ご本人の許可を得て掲載します。

"管理人さん、いつも読んでいます。前回、ホテルの中に入られたとのことで、少し心配しています。くれぐれも気をつけてください。
それで、前回の記事を読んで思い出したことがあって、メールしました。
桐生さんのノートに「水面に何もかもが映っている」と書いてあったという話を読んで、祖母のことを思い出しました。祖母はs山市の出身で、もう亡くなっていますが、子供の頃に丸子湖の話をしてくれたことがあります。
怖い話として聞かせてくれたので、正確な言い回しは覚えていません。ただ、こんな内容でした。
「鏡湖のそばに一人でいちゃいけない」
なんで? と聞いたら、祖母は「昔、あそこに一人で住んでた人がおかしくなった」とだけ言っていました。どうおかしくなったのかは教えてくれませんでした。それ以上聞こうとしたら「もうやめなさい」と怒られました。
子供の頃の記憶なので、祖母の言葉を正確に再現できているかどうかわかりません。ただ、「一人でいちゃいけない」と言われたことだけははっきり覚えています。
怖い話として聞いたので怖がった記憶がありますが、大人になってからは気にしていませんでした。管理人さんの記事を読んで思い出したので、一応お伝えしておきます。記事の内容とは関係ないかもしれませんが。"

 正直に言うと、このメールを読んで少し戸惑いました。

 以前紹介した郷土誌にも「一人で長く留まることを戒める言い伝え」があると書いてありました。s山在住さんのお祖母さんの話は、それと重なります。一人でいてはいけない。昔おかしくなった人がいる。

 昔話にはよくある禁忌です。山奥の湖のほとりに一人で住むな、という教訓。合理的に考えれば、孤立した環境で心身に異常をきたすリスクを経験的に知っていた先人の知恵でしょう。あまり真に受けるべきものではないかもしれません。

 ただ、メールを閉じた後も、「一人でいちゃいけない」という言葉がなんとなく頭に残りました。

 s山在住さんにお礼のメールを返しました。伝承について、他にお祖母さんから聞いた話がないか聞いてみました。

 返信が来るまで数日かかりました。s山在住さんは親戚に聞いて回ってくれたそうです。お祖母さんの話を覚えている人が一人だけいたとのことで、以下はその方からの伝聞です。

"祖母はこうも言っていたそうです。「あの湖は映す。映したものを取る」。それから、「取られた人は、自分がいなくなったことに気づかない」。
何を取るのかは聞けなかったそうです。ただ、「映す」と「取る」がセットで語られていたことは確かだとのこと。"

 「映したものを取る」。「取られた人は、自分がいなくなったことに気づかない」。

 これが何を意味するのか、正直わかりません。湖が人の何かを「映す」、そして「取る」。魂のような話なのか、もっと具体的な何かなのか。そして取られたことに本人は気づかない。

 合理的に考えれば、長期間の孤立による精神的変調を「湖に取られた」と表現する地域の言い回しでしょう。実際には人間の心の問題なのに、それを湖のせいにすることで、場所を避ける理由を共同体として共有していた。そう考えるのが自然です。

 ただ、第5回で見つけた明治三十六年の炭焼きの男のことを思い出しました。「湖の中に自分がもう一人いる」。そして第9回の市議会議事録。丸子南に単身で住んでいた住民が二人、行方不明になっている。転出届なし。発見されていない。

 全て「一人」です。一人で湖畔にいた人に何かが起きる。共通しているのはそれだけです。

 ただ、メールを閉じた後も、「取られた人は、自分がいなくなったことに気づかない」という言葉がずっと頭に残りました。気づかない。本人は気づかない。

 さて、丸子湖の伝承も興味深いのですが、今はそちらより桐生氏の所在を追うほうが優先です。

 先日ホテルに入った際にノートの内容を全て書き写す余裕はなかったので、改めてもう一度行ってきました。三月上旬、雪はだいぶ溶けていましたが、まだ日陰に残っていました。

 前回と同じ三階の部屋に入り、ノートを最初から最後まで読みました。三冊で合計百ページほど。机の上は前回と同じでしたが、椅子が引かれた位置が違った気がします。前回は机に寄せてあったように思うのですが、今日は少し後ろに引かれている。記憶違いかもしれません。机の脇に、前回は気づかなかったビニール袋が落ちていました。コンビニの袋です。中身はありませんでした。大半は業務の記録ですが、前回引用した以外にも、いくつか気になる記述がありました。

"山際さんに感謝する。こういう人がいてくれるのは心強い。
野口さんが意見書を出してくれた。行政の内側を知っている人の意見は大きい。
藤川さんは若いのに勇気がある。子供のためにと言っていた。あの人の怒りは本物だ。"

 桐生氏は三人のことをそれぞれ具体的に書いています。山際氏に対しては「こういう人」、野口氏に対しては「行政の内側を知っている人」、藤川氏に対しては「若い」「子供のためにと言っていた」。それぞれの人物像を把握している。ただ、読み返してみても、三人と会った場面の描写は一箇所もありませんでした。「言っていた」とはあるけれど、いつどこで言ったのかは書かれていない。「来てくれた」という記述はあるのに、「玄関で迎えた」「食事をした」「話をした」といった具体的な場面がない。いるのに、いない。姿が見えない。

 もう一箇所、気になる記述がありました。

"今日は四人で食堂にいた。みんな静かだった。窓の外に湖が見えた。誰も何も言わなかった。でもいてくれるだけで十分だった。"

 四人で食堂にいた。食堂には四人分の食器が並んでいたのを思い出しました。あの埃を被った茶碗と箸と小皿。折れた箸。桐生氏はあの食器を使っていたのだ。四人分の食器を並べて、四人で食事をしていた。一人で。

 もう一箇所。

"湖を見ていると落ち着く。水面に自分が映っている。自分の顔を見るのは久しぶりだ。鏡がないから。"

 ホテルに鏡がなかった。確かに、前回と今回、二度ホテルの内部を歩きましたが、鏡を見た記憶がありません。客室の洗面台にも、ロビーにも、桐生氏の部屋にも、鏡はなかった。旅館やホテルに鏡がないというのは、考えてみれば異常です。客室には洗面台があるのだから、本来は鏡があるはずです。

 今回改めて確認してみると、鏡は「なくなって」いたのではなく、割られていました。洗面台のボウルの中に、砕けた鏡の破片が溜まっている。粉々です。一回叩いて割れた、という壊れ方ではない。何度も何度も叩いて、粉になるまで砕いている。破片の一部はボウルの外にも飛び散って、タイルの床に細かいガラス片が散らばっていました。
 
 見た範囲では全ての部屋が同じ状態でした。鏡の枠だけが壁に残っていて、ガラスは洗面台の中で粉々になっている。ある部屋では破片が洗面台からあふれて床にも散らばっていました。スリッパを履いていなければ踏んでいたところです。別の部屋では、鏡の枠にまだ一つだけ破片が残っていて、三角形の銀色の欠片が壁にぶら下がっていました。その欠片に、廊下の暗がりの中を歩いている自分の姿が一瞬映った。目と口だけ。不完全な自分の顔。すぐに通り過ぎました。

 桐生氏がやったのだとしたら、相当な時間をかけて、全ての部屋を回って、一枚ずつ叩き割ったことになります。全二十四室。各室の洗面台の鏡。廊下のどこかにもあったかもしれない。全て。一枚残らず。それだけの時間と労力をかけて、この建物から鏡を消した。

 なぜ鏡を割るのか。鏡に映るものを見たくなかったのだとしたら——それは自分の顔です。鏡の中の自分の顔が自分だと思えなかった。あるいは、鏡の中に自分ではない誰かが映ったのかもしれない。 

 一つの洗面台で、つい覗き込んでしまいました。砕けた破片が何十にも重なっていて、その一つ一つに自分の顔の断片が映っている。目だけ、口だけ、頬の一部だけ。自分の顔が無数の欠片に分裂して、ばらばらの角度からこちらを見ている。一つの破片の中で、目が動いた気がしました。自分の目が動いたのか、反射の角度が変わったのか。吐き気に似た感覚がして、すぐに顔を離しました。洗面台から離れた後も、無数の目に見られていた感覚がしばらく消えませんでした。

 段ボール箱の中身もう一度確認しました。前回見落としていたものがいくつかありました。箱の底に、小さな封筒が入っていました。封筒の表には何も書いてありません。中に入っていたのは、ある病院の診察券でした。桐生誠の名前が印字されています。s山市の中心部にある心療内科のようです。

 桐生氏が通院していたということは、何らかの健康上の問題を抱えていたのかもしれません。廃業前後の時期のものかどうかはわかりません。診察券には日付の記載がないので。

 病院に問い合わせて桐生氏の情報を得ることは、個人情報の問題があるので難しいと思います。ただ、桐生氏が生存しているかどうかだけでも確認できないか、方法を考えてみます。

コメント欄
地方行政ウォッチャー 2025/03/09 08:30 桐生氏の所在確認なら、不動産の固定資産税の納税通知がどこに届いているかを確認するのも手かもしれません。土地建物を所有している以上、課税はされているはずです。

sss 2025/03/09 18:50 おばあちゃんの話、ちょっと怖いですね。でもまあ昔話ってどこにでもそういうのありますよね。

管理人 2025/03/09 22:10 地方行政ウォッチャーさん、なるほど、固定資産税の通知先ですか。調べてみます。