あやかしを慈しむ娘は不器用なマッドサイエンティストの愛に守られる




 翌日の日曜日の朝、優凪は荷物をまとめ、この家の主人である喜助に出て行く旨の挨拶をして、ひとり、出立した。
 時雨は嫡男だが、珍しくひとり暮らしだという。

 風呂敷を抱えて地図を手に歩くが、心が急いて自然と足は速くなった。
 息を切らして着いた優凪は、建物を見て唖然とする。

 錆びた鉄門の奥、鬱蒼と繁る木々の中、古びた洋館がたたずんでいた。壁には雨のあとが黒く筋となり、一部が剥落している。空は晴れて明るいのに、屋敷だけが暗く翳って見えた。
 ばさばさっと大きな羽音にびくっとすると、カラスがぎゃあぎゃあと飛び立っていく。

 門の鉄柵を押すと、ぎいい、と耳障りな音を立てて扉が開いた。
 玄関に着くと、優凪は扉に向かって声をかけた。

「ごめんください!」
 返事はなく、ドアを開けようとしたが鍵がかかっている。

 どうしようかと見回し、わきにある平屋を見つけた。使用人の家かもしれない。
 優凪はそちらに行き、また声をかけた。

「ごめんください!」
 大声を上げると、がちゃっと扉が開いた。

 現れたのはとてつもなく美しい少年だった。
 黒髪は絹のように艶やかでなめらか。肌は白磁のようで、ぱっちりした目は長い睫毛にふちどられ、憂いを帯びた表情がどことなくなまめかしい。洋装が良く似合っている。
 彼は扉を閉めて外に出て来た。