あやかしを慈しむ娘は不器用なマッドサイエンティストの愛に守られる

「白露は那河のことも話したよ」
 その名前に、優凪の胸が少なからず痛んだ。那河のみならず、斬るしかなかった時雨の心境を思うといたたまれない。

「『カラスに襲われていたのを助けてくれたのはあなただろう』と言われ、彼を操妖にしたくて『そうだ』と嘘をついたらしい。実際に助けたのは蕗藤さんだろう?」
 そういえば蛇を助けたことがある。白蛇ではなかったから那河と結びつかなかったし、言われるまで忘れていた。

「歌を歌っていた、桃色の着物を着ていた、この二点しか手がかりがなかったから、着物を見せてなりすましたようだ。蛇は視力が良くないから、誤魔化せたんだろう」
 優凪はぎゅっと奥歯をかみしめる。思い出まで白露に奪われていたなんて。

「あやかしが邪気を帯びるのは人間の邪悪さを取り込んだ結果との説がある。操妖の彼は常に邪気を浴びたうえ、未完成の強化薬がそれを増幅させて邪妖化したのかもしれない」
「結局、あやかしを邪妖にするのは人なのですね」

 白露が那河を大切に思っていたらあんな薬を飲ませなかっただろう。人を襲う命令を出さなかっただろう。
 知能がある那河には正邪がわかっていたはずだ。それでも恩人と思うから離れず、邪気を帯びた。

 彼はあのあと、あやかしの合同墓に埋葬された。人のために命を亡くしたり駆除されたりしたあやかしを祀るものだ。
 せめて、と優凪は胸に手を置く。
 せめてあの世での那河が心安らかであってほしい。

「折辺夫人は警察に怒鳴り込んで公務執行妨害で逮捕されたよ」
「伯母様まで逮捕なんて」
 優凪はあきれて言葉を失った。

「それからね」
 あえて明るい声を出す時雨に、優凪は顔を上げた。