あやかしを慈しむ娘は不器用なマッドサイエンティストの愛に守られる

 視線を逸らす優凪の胸には疑問が湧いた。
 彼の白い髪が黒ずんだ気がする。
 再び目を向けたとき、もう白露も那河もいなかった。

「気のせいならいいんだけど」
 ひとりごちた言葉は、夕暮れの風にそよりと混じって消えた。



 優凪の運命が変わったのは、その夜。
 喜助に呼ばれて座敷に行くと、にやにやと笑う白露と紀実子もいた。

「喜べ。お前に縁談だ」

 優凪は目を丸くした。

「お相手は伯爵家の長男だ。帯刀時雨(たてわきしぐれ)殿。二十七歳で、剣の名家だが、国の研究所であやかしの研究をしている」

「素敵ねえ!」
「お前にはもったいないわ」
 優凪は警戒した。白露と紀美子が喜ぶなんて、裏があるに違いない。

「西洋で言うところの『まっどさいえんてぃすと』だそうよ。社交界にはまったく出てこない変わり者」
 白露が侮蔑を目に浮かべ、紀実子が顔を歪めた。

「あやかしを生きたまま裂いたり、毒を注射したり。正気の沙汰じゃないわ」
「そんな!」
 青ざめた優凪を見て、白露はくすくすと笑う。

「なるべく早く来てほしいと言われている。明日にでも行け。粗相をするなよ。結納金がもらえなくなる」
 優凪はぎゅっと唇を噛んだ。その肩はふるふると震えている。

 白露は嬉しそうに嘲笑を浮かべた。
「嫁に行けるだけありがたく思いなさいよ」
「せいせいするわ」
 紀美子がたもとで口元を隠し、汚物のように優凪を見る。

「わかったら戻れ」
 喜助はめんどくさそうに手を振る。
 優凪はお辞儀をして座敷を出て、怒りに震える自分を抱きしめる。

「許せない、あやかしにひどいことをするなんて」
 ぎゅっと拳を握りしめ、優凪は密かに誓う。
「絶対に助けるわ」