あやかしを慈しむ娘は不器用なマッドサイエンティストの愛に守られる


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 釈放後、洋館に戻った時雨は優凪の不在を不審に思った。
 台所にはおむすびとともに「少し出かけます、食べてください」と手紙が残されている。

「優凪さん、どこへ」
 日常の買い物は御用聞きですませているし、買い忘れがあったとしてもこんな朝早くはおかしい。

 食べ終えると流しに皿を置いて、自室に入る。
 出張で使っていたカバンを開け、瓶を取り出す。中の白い結晶が朝日を浴びてきらきら輝いた。浄化薬の試作品だ。

 出張先の神社で、神域の海から作った門外不出の塩を特別にわけてもらい、浄化薬を試作した。投げ矢式の鎮静薬の試作品も、優凪に見せたくてひとつだけ持って来ている。

 コツコツと音が聞こえて窓を見るとベニーがいた。窓を開けるとばさばさと入って来て天井を旋回する。

「ユウナギ、ツカマッタ」
「なんだって!? どこだ!?」
「コッチ」
 ベニーは窓から飛び出す。

 時雨はとっさに試作品を懐に入れて玄関から飛び出し、ベニーを追いかける。
 到着したのは折辺家だった。

 時雨は険しい表情で門をくぐり、玄関の引き戸を叩く。
「折辺さん、話がある!」
「なによ、騒々しいわね……あ!」
 がらりと引き戸を開けて出た白露は、驚愕に顔をひきつらせた。

「なんでここに……」
「シグレ、ハヤク」
 ベニーが飛んできて時雨の肩に止まる。

「お前はお父様が捕まえに行ったのに!」
 時雨は顔をしかめた。礼を通すために訪問したが、相手には礼儀がないようだ。

「ベニー、居場所がわかるか?」
「コッチ」
 飛んでいくベニーと駆けていく時雨に、白露は焦った。
 彼はずっと優凪の味方だ。那河が襲ったのを知られて自分に責任が及んだらどうしよう。

「那河、どうにかして!」
「承知」
 影からするりと出た蛇は尋常ではない速さで時雨を追い、気になった白露も小走りにあとを追った。
 あやかし舎にたどりついた時雨は中から聞こえる歌声に優凪だと確信し、かんぬきをはずして飛び込んだ。