あやかしを慈しむ娘は不器用なマッドサイエンティストの愛に守られる

 所長はいらいらと机を叩く。
『だったらあやかしの強化薬を作れ』

 これは前から言われている。国はあやかしを強化して軍に組み込み、前線に出す人間を減らしたいらしい。今は平和だが、軍事力は常に備えておかなければ国防は成り立たない。

 だが、時雨は反対している。
 強力なあやかしは人間への脅威としてとうに駆逐され、残るのは穏やかな種族が多い。そんなあやかしを強化しても軍事には使えない。なにより、あやかしを利用するのが嫌だ。

 浄化薬や治療薬のほうがいい。生態を研究し、共存の道を拓くことが使命だと思っている。
『このままでは所内のあやかしを売るしかない。西洋では日本のあやかしは珍獣として人気だそうだ』
 時雨は不快に眉をひそめた。
 日本のあやかしが海外で生きていけるだろうか。もし売られた先で捨てられたら。

『資金については別の策を考えます』
 所長にはそう言ったものの、なにも案が浮かばず悩み続けた。

 身銭を切ることも考えたが家の修繕や縁切りのために割り増しした結納金などで懐はすっからかん、実家の両親は金銭に厳しいから安易に頼れない。

 心を曇らせることになると思うと優凪には言えず、こっそりベニーに愚痴をこぼしたことがある。
『シグレ、ガンバッテル』
 少ない語彙の中で慰めてくれるベニーがいじらしかった。

「俺が頑張らないといけないんだ」
 時雨は自分に気合を入れ直し、再び書類に目を通す。
 明日からの出張で浄化薬の手がかりがつかめたら、と願っていた。