あやかしを慈しむ娘は不器用なマッドサイエンティストの愛に守られる

「ご用件は」
「この度の縁談の是正を求めます。本来、嫁に来るのは白露だったのです」
 喜助の言葉につい足が止まって白露を見ると、彼女は得意げに顔を上げた。

「先日お伺いした際、優凪さんを嫁にすると結納金を払って証書にもしました。結納返しはいらないから彼女にかまうなと言ったはずです」
 いつの間に、と目を向けると時雨は立ち上がり、優凪の肩を抱いた。

「気付いてないでしょうが、あなたがたの虐待は社交界に広がっていますよ」
「な……!」
 絶句した白露の代わりに紀美子が言う。
「嘘よ。社交界には出てないじゃない」

「それでも耳に入るほど有名ですよ」
 ひょうひょうと答える時雨に、喜助がうなる。

「とにかく優凪は返してもらう。こいつがいなくなってから我が家の操妖が邪気を帯びた。絶対にこいつのせいだ」
「なにもしていません」
 優凪はすぐに否定したが、喜助は納得しない。

「早く戻ってなんとかしろ。まだ籍は入れていないんだろうが」
 憎々しげな喜助にこそ邪気を感じ、優凪の背筋に冷たいものが流れた。

 守るように彼女の前に出て、時雨は言う。
「すぐに籍を入れます。どうぞお帰りください」

「オカエリダ、オカエリダ!」
 隠れていたベニーが現れて叫びだし、白露たちはビクッと震えた。
 彼はばさばさっと音を立てて時雨の肩に止まる。