あやかしを慈しむ娘は不器用なマッドサイエンティストの愛に守られる

「特別手当だよ。頑張ってくれたからさ」
「でしたら帯刀様のお身なりを整えてくださいませ」

「……そうか、俺がこんななりじゃ君が恥をかくなあ」
 そうじゃない、と言いかけて飲み込んだ。彼に一人前のかっこうをしてもらうには、そう思わせたほうがいいのかもしれない。
 そうして翌週末に出かける約束をした。



 意外な客が訪れたのは、片付けをした夜だった。
 時雨の第二の書斎と化していた応接間の片隅には応接セットが復活している。
 そこに案内された客は、きょろきょろと周囲を見回した。

「廃墟がこんなに綺麗になるなんて」
雷霞(らいか)、言い過ぎだろ」
 時雨の弟、雷霞の前に優凪は緑茶を出す。

 洋装の彼は長い睫毛にふちどられた目を軽く伏せてお茶を飲む。その姿は一服の絵のようだ。
 時雨はどかっと座ったソファでぞんざいにゆのみを口にした。

「で、彼女を嫁にもらう気になった?」
 言われた時雨は、ぶっとお茶を噴いた。
 優凪は持っていた手ぬぐいを慌てて彼に渡す。

「なにを言うんだ」
「そもそも彼女は嫁に来たんだよ。ねえ?」
「……はい」
 優凪の返事に、時雨が目を丸くした。

「僕が探してあげたんだよ。兄さんが結婚しないと僕が家を継ぐはめになるからね。剣の名門の血を絶やすわけにはいかないってお父様がたがうるさくって」
 雷霞はすまし顔でお茶を飲み、おいしい、とつぶやいてから続ける。

「警戒させないために、女中ってことにした。ちょうど手伝いを欲しがってたし」
 優凪は種明かしに呆然とした。