「泥棒女!」
平手で頬を殴られた優凪はバランスを崩し、床に倒れ込んだ。
「あんたはいっつも私の物を盗む!」
着物と帯が散乱した部屋で、折辺白露が顔を真っ赤にして怒鳴る。彼女は折辺家のひとり娘で優凪の三歳下の従妹だ。
「違います」
「白々しい! だったらどうして黄蘗の帯がないの! 高かったのよ!」
優凪が知ったことではない。両親を亡くしてから十九歳の今まで折辺の家で無給の女中としてこき使われているが、白露の身の回りは別の女性の担当だ。
「泥棒ですよ。警察を呼びしましょう」
「そんな不名誉なことできないわよ! だから盗んだんでしょ!」
白露の癇癪に、むしろ、と畳を見つめる。
いろんなものを取り上げるのは白露だ。お気に入りだった桃色の着物も母が遺したかんざしも、すべて持って行かれた。
「なんの騒ぎですか」
廊下から不機嫌な声が混じり、白露は泣きそうな顔で駆けつけた。
「優凪に帯を盗まれたの」
「なんと手癖の悪い!」
白露の母、紀実子に侮蔑の目を向けられて優凪は首を振る。
「やってません。盗んだところで使う機会もありません」
「だまらっしゃい。私の着物もなくなっていたわ。お金に変えたのでしょう!」
「もしそうなら」
とっくに逃げています、と言おうとした優凪を防ぐように紀実子が言う。
「あやかし舎の掃除に行きなさい!」
「お前ごときにはふさわしいわ」
ふたりの嘲笑に、優凪は黙ってうつむく。



