万事休す、と優凪は固まった。
「ここには来るなと言ったはずだ」
どう言い繕ったものか。糸口を探すものの、思考は空転して冷や汗がにじむ。早鐘を打つ心臓の音がやけにうるさい。
ベニーが飛び込んできて、天井付近を旋回する。
「ネコ、ケガ、ナオッタ」
ベニーは羽音も高く時雨の肩に止まる。
時雨は猫の檻に目をやり、それから優凪を見下ろす。
「君、なにをした?」
「撫でただけです」
時雨は信じ難そうに顔をしかめ、別の檻のイタチのあやかしを取り出した。後ろ足に巻かれた包帯を外すと、痛々しい赤い傷が露出した。
「こいつを撫でてくれ。噛まないように押さえておくから」
頭を大きな手で包み込んで彼はイタチを差し出す。
本当に撫でただけで治るならどれだけ嬉しいだろう。
優凪はおそるおそる手を伸ばし、治るようにと祈りながら撫でる。思ったよりごわごわと硬い手触りの毛皮だ。
再び、手からなにかがあふれる感覚があった。
直後。
「治った!?」
時雨の声のトーンが上がった。
傷は皮膚が再生し、なにごともなかったかのようだ。



