〜永瀬樹〜
バスが動き出してから、しばらくはいつもの感じだった。
後ろの方で誰かが騒いで、新田の声がその中に混ざってる。たぶんツッコミ役に回ってるか、逆に煽ってるかのどっちかだろうな、と思う。別クラスの新田が同じバスに乗っているわけは、単に一クラスの人数が少ないからだ。
僕は窓に肘をついて、外をぼんやり見ていた。
隣で浅倉がスマホをいじっている。
「寝ないの?」
ふいに聞かれる。
「まだいい」
「意外だな」
「そうか?」
「こういうとき、すぐ寝るタイプだと思ってた」
少しだけ考える。
「まあ、眠くなったら寝る」
「自由人だな」
それで会話は終わる。
バスの中の空気も、時間が経つにつれて少しずつ落ち着いていく。
最初の勢いだけで騒いでたやつらも、だんだん静かになる。
その頃に、ガイドの人の声が入った。
「このあと、最初の体験場所に向かいます」
前の方で「おー」って声が上がる。
後ろでも、誰かが「何やるんだっけ?」とぼやいている。
「知らないのかよ」
浅倉が小さく笑う。
「説明聞いてなかったんだろ」
「ありがち」
そんなことを言ってる間に、バスは目的地に着いた。
降りると、少しひんやりした空気が当たる。
目の前には、木造の建物と、広めの敷地。
観光用って感じの場所。
「うわ、なんかそれっぽいな」
新田が言う。
「“それっぽい”って何」
水沢さんが笑う。
「いや、体験って感じのやつ」
「雑すぎ」
そんなやり取りをしながら、中に入った。
案内されて、エプロンみたいなものを渡された。
「そば打ち体験か」
浅倉が言う。
「あー、それだ」
新田が納得したように頷く。
浅倉も知らなかったのかよ。
「やったことある?」
水沢さんが聞く。
「ない」
僕は答えた。
「同じく」
浅倉も言う。
立花さんは少しだけ楽しそうに道具を見ている。
「なんか、難しそう……」
「まあ、どうにかなるだろ」
新田が軽く言う。
「ならなかったら笑い飛ばすだけだしね」
水沢さんがすぐ返す。
準備が終わって、説明が始まる。
粉をこねて、伸ばして、切る。
言葉にすると簡単だけど、実際にやると普通に難しい。
「これ水の量合ってる?」
新田が聞く。
「知らん」
僕は即答する。
「いや見ろよ」
「見てもわからないだろ」
「確かに」
浅倉が横から軽く触る。
「ちょっと固いんじゃない」
「だよな?」
「たぶん」
結局、なんとなくで進める。
横を見ると、水沢さんが結構手際よくやってる。
「うまくない?」
新田が言う。
「でしょ」
「経験者?」
「動画で見たことあるだけ」
立花さんは少し苦戦している。
「これ、まとまらない……」
「貸して」
水沢さんが手を伸ばす。
軽く整えてから戻す。
「ほら、こうするといける」
「……あ、ほんとだ」
ちょっと嬉しそうに笑う。
そのやり取りを見ながら、なんとなく手を動かす。
伸ばす工程に入ると、また難しい。
「均等にって言われてもな」
浅倉が言う。
「無理だろ」
「無理だな」
結果、若干いびつになる。
「これ絶対太さバラバラだろ」
新田が言う。
「今さら」
「いやでもさ」
「食えればいいだろ」
「それはそう」
最後に切る。
ここが一番差が出る。
「うわ、太」
新田のを見て水沢さんが笑った。
「うるせえ」
「きしめんじゃん」
「それは言い過ぎ」
僕のも、そこまで綺麗ではない。
でもまあ、形にはなっている。
一通り終わると、係の人がまとめて持っていった。
「これ食べれるの?」
立花さんが聞く。
「食えるだろ」
新田が言った。
「たぶん」
浅倉が付け足す。
少ししてから、別の場所に案内された。
昼食。
席に座ると、さっき作ったそばが運ばれてきた。
「おー、それっぽい」
「さっきもそれ言ってた」
水沢さんが突っ込む。
「いただきます」
立花さんが小さく言ったのに合わせて、全員手を合わせる。
「……どう?」
水沢さんに聞かれ、少しだけ考える。
「普通に美味しい」
僕は言う。
新田もすぐ頷く。
「思ったよりちゃんとしてるな」
「きしめんも美味しいよね」
彼の隣で、立花さんが少し笑いながら言った。
「だから違うっての」
「結衣にも認定されたねおめでと」
新田が頭を抱えたのを横目に、水沢さんがこちらを向く。
「自分で作ったやつって、ちょっと補正かかるよね」
「ちょっとわかるかも」
小さく頷く。
そのまま、普通に昼食が進んだ。
さっきまでの体験の話とか、失敗したとことか、そんなことを軽く話しながら。
特別なことをしてるわけじゃない。
でも、いつもと違う場所で、同じメンツで飯食ってるだけで、少しだけ空気が違う。
「午後なにするんだっけ?」
新田が言う。
「自由行動だった気がする」
浅倉が返す。
「結衣一緒にどっか行かない?」
そんな会話を聞きながら、そばを食べる。
午前はこれで終わり。
思ってたより、ちゃんとしてたな、と思う。
悪くない。
そういう感じで、ちょうどいいくらいだった。
バスが動き出してから、しばらくはいつもの感じだった。
後ろの方で誰かが騒いで、新田の声がその中に混ざってる。たぶんツッコミ役に回ってるか、逆に煽ってるかのどっちかだろうな、と思う。別クラスの新田が同じバスに乗っているわけは、単に一クラスの人数が少ないからだ。
僕は窓に肘をついて、外をぼんやり見ていた。
隣で浅倉がスマホをいじっている。
「寝ないの?」
ふいに聞かれる。
「まだいい」
「意外だな」
「そうか?」
「こういうとき、すぐ寝るタイプだと思ってた」
少しだけ考える。
「まあ、眠くなったら寝る」
「自由人だな」
それで会話は終わる。
バスの中の空気も、時間が経つにつれて少しずつ落ち着いていく。
最初の勢いだけで騒いでたやつらも、だんだん静かになる。
その頃に、ガイドの人の声が入った。
「このあと、最初の体験場所に向かいます」
前の方で「おー」って声が上がる。
後ろでも、誰かが「何やるんだっけ?」とぼやいている。
「知らないのかよ」
浅倉が小さく笑う。
「説明聞いてなかったんだろ」
「ありがち」
そんなことを言ってる間に、バスは目的地に着いた。
降りると、少しひんやりした空気が当たる。
目の前には、木造の建物と、広めの敷地。
観光用って感じの場所。
「うわ、なんかそれっぽいな」
新田が言う。
「“それっぽい”って何」
水沢さんが笑う。
「いや、体験って感じのやつ」
「雑すぎ」
そんなやり取りをしながら、中に入った。
案内されて、エプロンみたいなものを渡された。
「そば打ち体験か」
浅倉が言う。
「あー、それだ」
新田が納得したように頷く。
浅倉も知らなかったのかよ。
「やったことある?」
水沢さんが聞く。
「ない」
僕は答えた。
「同じく」
浅倉も言う。
立花さんは少しだけ楽しそうに道具を見ている。
「なんか、難しそう……」
「まあ、どうにかなるだろ」
新田が軽く言う。
「ならなかったら笑い飛ばすだけだしね」
水沢さんがすぐ返す。
準備が終わって、説明が始まる。
粉をこねて、伸ばして、切る。
言葉にすると簡単だけど、実際にやると普通に難しい。
「これ水の量合ってる?」
新田が聞く。
「知らん」
僕は即答する。
「いや見ろよ」
「見てもわからないだろ」
「確かに」
浅倉が横から軽く触る。
「ちょっと固いんじゃない」
「だよな?」
「たぶん」
結局、なんとなくで進める。
横を見ると、水沢さんが結構手際よくやってる。
「うまくない?」
新田が言う。
「でしょ」
「経験者?」
「動画で見たことあるだけ」
立花さんは少し苦戦している。
「これ、まとまらない……」
「貸して」
水沢さんが手を伸ばす。
軽く整えてから戻す。
「ほら、こうするといける」
「……あ、ほんとだ」
ちょっと嬉しそうに笑う。
そのやり取りを見ながら、なんとなく手を動かす。
伸ばす工程に入ると、また難しい。
「均等にって言われてもな」
浅倉が言う。
「無理だろ」
「無理だな」
結果、若干いびつになる。
「これ絶対太さバラバラだろ」
新田が言う。
「今さら」
「いやでもさ」
「食えればいいだろ」
「それはそう」
最後に切る。
ここが一番差が出る。
「うわ、太」
新田のを見て水沢さんが笑った。
「うるせえ」
「きしめんじゃん」
「それは言い過ぎ」
僕のも、そこまで綺麗ではない。
でもまあ、形にはなっている。
一通り終わると、係の人がまとめて持っていった。
「これ食べれるの?」
立花さんが聞く。
「食えるだろ」
新田が言った。
「たぶん」
浅倉が付け足す。
少ししてから、別の場所に案内された。
昼食。
席に座ると、さっき作ったそばが運ばれてきた。
「おー、それっぽい」
「さっきもそれ言ってた」
水沢さんが突っ込む。
「いただきます」
立花さんが小さく言ったのに合わせて、全員手を合わせる。
「……どう?」
水沢さんに聞かれ、少しだけ考える。
「普通に美味しい」
僕は言う。
新田もすぐ頷く。
「思ったよりちゃんとしてるな」
「きしめんも美味しいよね」
彼の隣で、立花さんが少し笑いながら言った。
「だから違うっての」
「結衣にも認定されたねおめでと」
新田が頭を抱えたのを横目に、水沢さんがこちらを向く。
「自分で作ったやつって、ちょっと補正かかるよね」
「ちょっとわかるかも」
小さく頷く。
そのまま、普通に昼食が進んだ。
さっきまでの体験の話とか、失敗したとことか、そんなことを軽く話しながら。
特別なことをしてるわけじゃない。
でも、いつもと違う場所で、同じメンツで飯食ってるだけで、少しだけ空気が違う。
「午後なにするんだっけ?」
新田が言う。
「自由行動だった気がする」
浅倉が返す。
「結衣一緒にどっか行かない?」
そんな会話を聞きながら、そばを食べる。
午前はこれで終わり。
思ってたより、ちゃんとしてたな、と思う。
悪くない。
そういう感じで、ちょうどいいくらいだった。
