『Friends』 〜 一年間の黙示録 〜

〜新田陽翔〜


日曜の朝は、ちょっと静かすぎる。
平日みたいにバタバタしてないし、誰かの声で急かされる感じもない。目が覚めても、すぐに起きる理由がないっていうか。天井見ながら、少しぼーっとする時間がある。

スマホを見る。

時間は、まだ“待ち合わせ”の一時間前くらい。

……早くない?
自分でも思うけど、もう目は覚めてるし、二度寝する気にもならない。起き上がって、とりあえず顔を洗う。冷たい水で一気に目が覚めた。

鏡を見る。

いつも通りの顔。特に変わったところはない。
でも今日は、ちょっとだけ違う日だ。
服どうするか、少し迷う。派手すぎるのも違うし、適当すぎるのも嫌だし。結局、無難なやつを選ぶ。考えすぎてもよくわかんなくなるし。

家を出ると、空気が軽い。
日曜の午前って感じの、ゆるい静けさ。道もそこまで混んでないし、歩いてる人もどこかゆっくりしてる。

待ち合わせの駅に着くと、まだ少し早い。改札の近くで立って、なんとなく人の流れを見る。スマホを見たり、時計を見たり、また周りを見たり。落ち着かないわけじゃないけど、じっとしてるのも変な感じだ。

「新田くん」

声がして振り向く。結衣が立っていた。
白っぽいトップスに、シンプルなスカート。いつもより少しだけ柔らかい雰囲気に見える。
「あ、おはよ」
「おはよう」
結衣は少しだけ笑う。その感じが、なんかちょうどいい。
「待った?」
「いや、俺も今来たとこ」
こういうの、たぶん大体お互い様だ。
改札を抜けて、一緒に歩き出す。行き先は、ショッピングモール。特に決めたことがあるわけじゃないけど、なんとなくそういう流れになった。電車の中はそこそこ混んでるけど、立つほどじゃない。並んで座れるくらい。
「日曜って、やっぱ人多いね」
結衣が言う。
「まあな」
「でも、平日よりはゆっくりしてる感じする」
「それはある」
窓の外の景色が流れていく。特に見るものがあるわけでもないけど、なんとなく目で追う。隣に誰かがいるのに、変に気を使わなくていい感じがする。それがちょっと不思議で、でも嫌じゃない。

モールに着くと、人が一気に増えた。明るい音楽と、いろんな店の匂いが混ざって、少しだけ騒がしい。
「どうする?」
「うーん、とりあえず見て回る?」
「いいよ」
エスカレーターに乗って、上の階へ。
店のガラスに映る自分たちが、一瞬見える。なんか、ちゃんと“それっぽく”見えるのが少し変な感じだ。
結衣が服を見始める。ハンガーにかかったシャツを手に取って、少し考える。
「これ、どう思う?」
「いいんじゃない?」
「ほんと?」
「似合いそう」
適当じゃなくて、本心でそう思う。

結衣は少しだけ考えてから、戻す。
「もうちょっと見てもいい?」
「うん」
店の中をゆっくり歩く。特に急ぐ理由もないし、時間も気にしなくていい。
「新田くんは、こういうの見る?」
「服?」
「うん」
「まあ、たまに」
「へぇ」
少し意外そうな顔をする。
「見てるだけでも楽しくない?」
「まあ……わかる」
実際、こうやっているとなんだか楽しい。その理由が服を見ているからかはわからないけど。

店を出て、次のフロアへ。吹き抜けの上から、下の階が見える。人が小さく動いていて、なんかゲームみたいに見える。
「お腹すいたね」
結衣が言う。
「そろそろ昼か」
フードコートに向かった。少し混んでるけど、運よく席が空いていた。
「何にする?」
「どうしようかな……」
メニューを見ながら悩む。
「じゃあ、俺ラーメンにする」
「早いね」
結衣は少し考えてから、別の店に並んでいた。

トレーを持って戻ると、結衣も戻ってきたところだった。
「「いただきます」」
向かい合って座る。ちょっとだけ緊張するかなと思ったけど、意外と普通だ。
「おいしい?」
結衣が聞く。
「うん、普通にうまい」
「よかった」
結衣も一口食べて、少しだけ笑う。その表情を見て、なんか安心する。
「こうやってさ」
俺が言う。
「うん?」
「普通にご飯食べてるの、なんか変な感じする」
「変?」
「いや、悪い意味じゃなくて」
「たしかに、なんか不思議な感じだね」
結衣は小さく頷く。
それ以上は言わないけど、それで十分伝わった。

食べ終わって、トレーを片付ける。またモールを少し歩く。
ゲームセンターの前で、少し立ち止まる。
「やる?」
「どうしよう」
「一回だけやろうぜ」
結衣は少し迷ってから、頷く。

クレーンゲームにコインを入れる。
「いけそう?」
「...たぶん」
「その“たぶん”怪しい」
「うるさい」
軽く笑いながら操作する。

結果、取れなかったのは言うまでもない。普段全然やらないし。
「惜しい」
「いやいや」
「いや、ちょっといけそうだった」
もう一回やるか迷って、やめる。
「まあいいか」
「うん」
外に出ると、空が少し色を変え始めていた。朝よりも柔らかい光。
「そろそろ帰る?」
結衣が言う。
「そうだな」
駅に向かって歩く。
来たときよりも、少しだけ静かな感じがする。
「今日はありがとう」
結衣が言う。
「こっちこそ」
「楽しかった」
「うん、俺も」
それ以上の言葉は、特にいらない気がした。

電車に乗って、少しだけ無言になる。でも、気まずくはない。窓の外を見ながら、今日のことをぼんやり思い出す。
特別なことをしたわけじゃない。

ただ、一緒に歩いて、話して、ご飯食べて。

それだけ。
でも、それがちゃんと“特別”になってる感じがした。

「じゃあ、また明日」
「うん、また明日」
結衣が手を振る。俺も軽く手を上げる。
改札を抜けて、それぞれの方向へ。日曜の終わりに近づいていく空気。
なんか、悪くない一日だったな。

そう思いながら、家までの道を歩いた。