『Friends』 〜 一年間の黙示録 〜

〜浅倉琉生〜


遠山さんが教室を出ていったあと、夕方の光だけが残った。さっきまでの勢いが嘘みたいに、静かだ。
「明日、告白してあげるんだ!」
あの自信満々な声が、まだ耳に残っている。
椅子に座り直して、窓の外を見る。グラウンドの端に長い影が伸びていた。

――どうする。

自然と、そう考えている自分がいる。新田は、僕の幼なじみだ。家も近くて、小さい頃からなんとなく一緒にいた。あいつは基本的に明るいし、場の空気も読める。けど、押しに弱いところがあるのも知っている。

そして、あの日、図書室で聞いた。

立花さんの名前。

あれは冗談じゃなかった。声のトーンが違った。からかわれてる時の軽さじゃなくて、ちゃんと選んだ言い方だった。遠山さんの勢いと、新田の曖昧さ。噛み合えばいいけど、たぶん噛み合わない。

遠山さんは悪いわけじゃない。ただ、自分の気持ちを疑わない。それが強さでもあり、危うさでもある。
机の上に肘をついて、指先でノートの角をなぞる。
伝えるべきか。いや、何を?
「明日告白されるぞ」なんて言うのも変だし、余計なお世話かもしれない。
でも、何も知らないまま流されるのも、あいつらしくない。

ため息が出る。

僕は立ち上がって、教室を出た。廊下は部活に向かう生徒たちで少しざわついている。窓の外は、夕焼けに染まりかけている。歩きながら考える。 新田は、どうするだろう。遠山さんに告白されたら。

断るのか。
曖昧にするのか。
それとも……流されるのか。

そして、その先で、立花さんはどうなる。彼女は、きっと知らない。
遠山が動くことも、新田が迷っていることも。

あの廊下で、少し緊張した顔で笑っていた立花を思い出す。ゆっくりだけど、確実に踏み出そうとしていた。
誰かの勢いに、あの静かな一歩が消されるのは、なんとなく嫌だと思った。階段を降りて、一階の廊下に出る。

「こんにちは」

やわらかい声が響く。顔を上げると、生活委員の腕章をつけた立花さんが立っていた。廊下の端で、帰る生徒に丁寧に挨拶している。
「さようなら」

ひとりひとりに、きちんと目を合わせて。作業みたいじゃなくて、ちゃんと気持ちがこもっている。僕と目が合う。
「あ、浅倉くん。さようなら」
少しだけ微笑む。
「……さようなら」
自然と、いつもより穏やかな声になる。夕日の光が、彼女の横顔をやわらかく縁取っていた。

まっすぐで、静かで。
守りたくなる、なんて言葉は大げさかもしれないけど。

僕は一瞬、立ち止まる。
明日、何が起きるかはわからない。

でも、少なくとも――

ただ流されるだけの展開には、したくない。

彼女が次の生徒に「さようなら」と言う声を合図に、僕は振り返った。