『Friends』 〜 一年間の黙示録 〜

〜新田陽翔〜


……なんなんだ、今の。

遠山が去っていった廊下の先を、しばらく眺めてしまった。勢いがすごい。急に現れて、空気をかき回して、満足したみたいに去っていく。台風みたいだな、とわりと本気で思う。
「決まりね」って、何が決まりなんだ。
俺、ちゃんと了承した覚えはない。けど、はっきり否定もしなかった。ああいう真正面からの勢いには、どうも強く出られない。
嫌だったか、と自分に問いかけてみる。
……嫌ではない。多分。
ただ、距離の詰め方が予想外すぎて、頭が追いついていないだけだ。
ジュース、か。
なぜジュース?
あれは軽い誘いなのか、それともそうじゃないのか。遠山の表情を思い返す。自信満々で、迷いがない。ああいう人間は、たぶん自分の選択を疑わない。

そんなことを考えながら廊下を歩いていると、角を曲がったところで人影が止まった。
「あ、ごめん」
ぶつかりそうになって、慌てて足を止める。
「あ……新田くん」
立花だった。
「悪い、前見てなかった」
「ううん、大丈夫」
相変わらず声は控えめだけど、ちゃんとこっちを見ている。
「今、遠山ってやつに急に話しかけられて」
「そうなんだ」
それ以上踏み込まない。その距離感が、立花らしい。
「なんか、すごかった」
正直な感想が出る。
立花は小さく笑った。
「遠山さんらしいね」
「らしい、か」
「うん。思い立ったらすぐ動くタイプ」
確かに。迷いがない分、強い。
「ジュース買い行こって言われた」
「へえ」
「それだけ?」
「……まあ嫌じゃないなら、いいんじゃない?」
さらっと言う。嫌じゃない。そこが一番厄介だ。
「急すぎないか?」
「遠山さんの中では、急じゃないのかも。いつもああだから...」
立花は珍しく苦笑いをした。なるほどな、と思う。自分のタイミングで動ける人間は、きっと強い。
「新田くん、意外と押されると断れないでしょ」
「……否定できないな」
立花は少しだけ笑って、「じゃあね」と教室へ向かった。
俺はその背中を見送りながら、軽く息をつく。

あのペースに巻き込まれたとき、自分がどこまで流されるのか。
そこだけが、少し気になった。