季節のはざまに虹を架ける

「どう?」
「めっちゃ似合ってる! ……し、こっちのほうがスタイルよく見えるかも? ほんっとに僅差だけど」

 日曜日。
 平日と同じぐらいの時間に家を出た私は、涼介の家の最寄駅で電車を降りて迎えに来てくれた涼介と落ち合った。
 それから二時間ほど近くの公園で一緒に過ごして、解散したその足でショッピングモールに向かうと、先に到着して場内を周っていた心春と合流する。
 まずは腹ごしらえのためにハンバーグ屋さんに入り、そして今日の目的地であるファッションフロアにやって来た。

「だよねぇ……」

 試着室のカーテンを開けたまま、心春が姿見の前で何度か体の向きを変える。

「でも、彼氏はさっきのほうが好きだと思うんだ」

 ふんわりした白のブラウスにハイウエストのプリーツスカートを合わせたガーリーなスタイル。ハーフアップにアレンジされた今の髪型とも相性抜群で、もちろん心春によく似合っているものの、いまいち決め手に欠けるようだった。
 というのも、この服の出番は今日じゃない。

「あー……それは悩むやつ。せっかくの二年記念日だもんね」
「そうなの! だから、彼氏好みで行きたいんだけど、わたしもこっちのほうがテンション上がるんだよねぇ。さっきのだと普段のメイクとも、ちょっと合わない気がしてて……」
「気に入った格好VS彼氏好みの格好、か……」

 先に試着したミントグリーンのオフショルダーとデニムパンツ姿を思い出してみる。
 いつもより少し大人な雰囲気で、記念日という特別な日のおしゃれとしてはもってこいだと、店員さんと一緒に太鼓判を押したコーディネートだった。
 でも、どちらが心春らしいかと言われると、スカートスタイルに軍配が上がってしまう。
 今のほうがいいという思いこみが邪魔をするのか、はたまたあとに着たものだから記憶に残っているのか、理由はどうあれ私の記憶だけでは平等な判断を下せそうにない。
 二人して悩んでいると、店員さんが今なら()いているからとパンツスタイルの再試着を提案してくれた。

「でも、あおいちゃん待たせちゃう……」
「いくらでも待つって。こういうのは妥協しちゃダメでしょ」
「じゃあ……もう一回だけ! ありがとう、あおいちゃん!」
「いってらっしゃーい」

 心春が着替えているあいだ、せっかくなので私も店内をうろついてみる。
 シフォンやレースといった柔らかな素材を取り入れた甘めのスタイルが人気のこのお店。有名店だから名前は知っていたけど、こうして足を踏み入れるのは今日が初めてだ。
 グレーのニットに黒色のオーバーサイズのパンツというモノトーンでまとめた今の私は、進行方向にある鏡の中ではとても浮いて見える。
 昨日切ったばかりの髪も外見から性別要素を取り除くことに効力を発揮しているせいか、店員さんも私には無理に試着を勧めてこない。
 だけど、実はいくつか食指が動いた商品がある。
 そばにあるマネキンが着ているベージュのワンピース。ラックに掛かったネイビーのジャケット。棚に置かれているロゴ入りTシャツ。
 実際に着るかどうかは別として、意外と好みの商品が目について心が踊る。店頭に並んでいる商品だけで入店候補から外すなんて、もったいないことをしていた。
 SNSでメンズ服を見ていた近ごろの私から百八十度の方向転換。こういったことがあらゆる場面で発生するので、もしかしたらSNSのアルゴリズムも私に提案するコンテンツ選びで頭を抱えているかもしれない。
 などとぼんやり考えていたら、

「あおいちゃーん、どこー?」

 抑えているつもりであろう心春の声がしっかり響いてきた。