帝都東雲町の煉瓦街。
普段ならば、洋灯の柔らかな光の下で着飾った紳士淑女が行き交う華やかな大通りが、今宵は阿鼻叫喚の地獄へと変貌していた。
「ひぃぃぃっ! ば、化け物だァッ!!」
「逃げろ! 凶喰が出たぞ!!」
石畳の上を、人々が悲鳴を上げて逃げ惑う。
彼らの背後から迫るのは、四つん這いで獣のように吼える、黒く爛れた異形の群れ――『凶喰』の姿だった。
凶喰たちは鋭い爪で煉瓦の壁を削り、逃げ遅れた女子供に涎を垂らしながら飛びかかろうとしている。
だが、その惨劇をはるか頭上の時計塔から見下ろしている鷹司雅の顔には、この上なく退屈そうな冷笑が浮かんでいた。
「……本当に、人間という生き物は救いようのない虫けらね。あんな見え透いた幻影に怯えて、互いを押し退けて逃げ惑うなんて。踏み潰される蟻を眺めているようで、反吐が出るわ」
雅の背後で、九つの尾を持つ妖狐の幻影が、嘲笑うように揺らめく。
大通りを這い回る凶喰の群れは、すべて彼女の『九尾』の異能が作り出した幻術だ。
実体はない。
人々の恐怖心を煽り、絶望を見せつけるためだけに創り出された虚像である。
「これほどの騒ぎが起きれば、朔夜様は、小娘を置いてでも飛び出して来ざるを得ないわね」
雅は扇子で口元を隠し、悦びに目を細めた。
自分の幻術が、帝都最強の男を踊らせている。
その優越感が、彼女の傷ついた自尊心を甘く満たしていた。
朔夜が幻術の処理に手間取っている間に、水無月昭人が屋敷に潜入し、あの目障りな志野を排除する。
雅にとって、これほど完璧な脚本はなかった。
「さあ、早く来なさいな。貴方の焦る顔が見たいわ……」
雅がそう呟いた、次の瞬間だった。
雲一つない帝都の夜空を、鼓膜を破るような轟音と共に、極太の青白い雷光が一直線に引き裂いた。
ただの落雷ではない。
大通りを埋め尽くしていた数十体の「凶喰の幻影」の頭上に、一切の慈悲もなく、神の裁きのように正確に降り注いだのだ。
「な……っ!?」
雅の目が驚愕に見開かれる。
雷光が弾けた瞬間、彼女が緻密に編み上げた九尾の幻術は、抵抗する間すら与えられず、瞬きする間に塵となって空へ霧散した。
悲鳴を上げていた群衆も、突如として消え失せた化け物たちと、石畳を焦がす雷の残香に、呆然と立ち尽くしている。
「幻術だと分かっていても、ここまで雑な舞台を見せられると反吐が出るな」
普段ならば、洋灯の柔らかな光の下で着飾った紳士淑女が行き交う華やかな大通りが、今宵は阿鼻叫喚の地獄へと変貌していた。
「ひぃぃぃっ! ば、化け物だァッ!!」
「逃げろ! 凶喰が出たぞ!!」
石畳の上を、人々が悲鳴を上げて逃げ惑う。
彼らの背後から迫るのは、四つん這いで獣のように吼える、黒く爛れた異形の群れ――『凶喰』の姿だった。
凶喰たちは鋭い爪で煉瓦の壁を削り、逃げ遅れた女子供に涎を垂らしながら飛びかかろうとしている。
だが、その惨劇をはるか頭上の時計塔から見下ろしている鷹司雅の顔には、この上なく退屈そうな冷笑が浮かんでいた。
「……本当に、人間という生き物は救いようのない虫けらね。あんな見え透いた幻影に怯えて、互いを押し退けて逃げ惑うなんて。踏み潰される蟻を眺めているようで、反吐が出るわ」
雅の背後で、九つの尾を持つ妖狐の幻影が、嘲笑うように揺らめく。
大通りを這い回る凶喰の群れは、すべて彼女の『九尾』の異能が作り出した幻術だ。
実体はない。
人々の恐怖心を煽り、絶望を見せつけるためだけに創り出された虚像である。
「これほどの騒ぎが起きれば、朔夜様は、小娘を置いてでも飛び出して来ざるを得ないわね」
雅は扇子で口元を隠し、悦びに目を細めた。
自分の幻術が、帝都最強の男を踊らせている。
その優越感が、彼女の傷ついた自尊心を甘く満たしていた。
朔夜が幻術の処理に手間取っている間に、水無月昭人が屋敷に潜入し、あの目障りな志野を排除する。
雅にとって、これほど完璧な脚本はなかった。
「さあ、早く来なさいな。貴方の焦る顔が見たいわ……」
雅がそう呟いた、次の瞬間だった。
雲一つない帝都の夜空を、鼓膜を破るような轟音と共に、極太の青白い雷光が一直線に引き裂いた。
ただの落雷ではない。
大通りを埋め尽くしていた数十体の「凶喰の幻影」の頭上に、一切の慈悲もなく、神の裁きのように正確に降り注いだのだ。
「な……っ!?」
雅の目が驚愕に見開かれる。
雷光が弾けた瞬間、彼女が緻密に編み上げた九尾の幻術は、抵抗する間すら与えられず、瞬きする間に塵となって空へ霧散した。
悲鳴を上げていた群衆も、突如として消え失せた化け物たちと、石畳を焦がす雷の残香に、呆然と立ち尽くしている。
「幻術だと分かっていても、ここまで雑な舞台を見せられると反吐が出るな」



