帝都鵺恋綺譚――軛の花嫁


 志野が微睡みに落ちた後。
 朔夜は書斎へと向かい、静かに控えていた右近と左近の前に腰を下ろした。

「鏡夜の奴が嗅ぎ回っている。……長老衆も、志野の力の異質さに気付き始めている頃だろう」

 朔夜の低い声に、左近が一歩前に出て、古びた書物を机の上に広げた。

「朔夜様。志野様の御力について、禁衛府の古い文献や、仙家の歴史書を洗い直しました。……鏡夜様の仰る通り、あれは単なる『浄化』の域を超えています」

 左近の指先が、和紙に記された古い一文をなぞる。

「『鵺』の雷は、すべてを無に帰す破壊の極致。それを無効化するのではなく、糧として新たな生命(守護木の桜)を芽吹かせるなど……過去のいかなる異能者の記録にも存在しません。これは『浄化』ではなく、運命そのものを覆す『反転』です」

「反転、か……」

 右近が腕を組み、険しい表情で口を開く。

「もしその事実が長老衆や他の仙家……特に、あの水無月昭人に完全に知れ渡れば、志野様は今度こそ『奇跡の器』として、帝都中の異能者から狙われることになります」

「……誰にも渡さん」

 朔夜の深紫の瞳が、暗い炎を宿して冷たく光る。

「志野は俺の命だ。長老衆であろうと、鏡夜であろうと、あの女に手を出そうとする奴は、俺がこの手で法という名の下にすべて焼き尽くす」

 志野の持つ未知なる力の解明。
 それは同時に、彼女を檻の中に匿い続けることの難しさを、つきつけていた。