帝都鵺恋綺譚――軛の花嫁


「……実に美しい光景ですね。歴代当主たちが蹂躙し壊した世界を、貴女が必死に繋ぎ合わせている」
 
 振り返れば、そこには鳴神鏡夜が立っていた。
 以前のような、志野を塵芥と吐き捨てるような殺気はない。
 代わりに、朔夜によく似た瞳には、心酔にも似た色が宿っていた。
 
「鏡夜様……」
 
「驚かないでいただきたい。今日は……少し、謝罪に参ったのです。あのような野蛮な計画を唆したこと、私の不名誉でした」
 
 鏡夜は、信じられないほど柔らかな笑みを浮かべ、志野へと一歩、歩み寄った。
 かつてあれほど志野を撥ね退けていたはずの彼が、今は志野を、正しくは、志野の奥で脈打つ『加護』を、熱い視線で見つめている。

「……私は貴女を、鳴神の血を汚す無価値な出来損ないだとばかり思っておりました。ですが……すべてを理解したのです」

 じり、と。
 鏡夜がさらに距離を詰める。
 志野は反射的に一歩後ずさったが、その退路を塞ぐように、彼の纏う冷たい霊圧が足元を縛った。
 
「志野さん。貴女のその……呪を光に変える力。それは、鳴神の血に絶望する者にとって、唯一の救いです」
 
 鏡夜が差し出した掌は、微かに震えていた。

 彼もまた、誇り高き鳴神の血を引く者。
 朔夜ほどではないにせよ、内側から自身を焼き尽くす凶暴な力に、苛まれている。
 いつか自分も理性を失い、あの地下牢で餓死する亡霊の仲間入りをするのではないかという、終わりのない恐怖。

「貴女は、あの恐ろしい兄上の暴走すらも、あのように美しく昇華してみせた。……ならば、私だって」

 鏡夜の整った顔立ちが、切実な欲望に歪んだ。

「兄上だけが独占するのは、あまりにも勿体ない。……私にも、その光を分けてはくれませんか? 貴女なら、私のこの忌々しい『呪い』も、花に変えてくれるのでしょう?」