帝都を震撼させた凶喰の騒乱は、鳴神神社の結縁の儀を経て、嘘のように凪いでいった。
かつて死を待つ亡霊たちの呻きが響いていた鳴神神社は、志野から匂いたつ白銀の桜の残香に包まれ、澱んでいた仙気は清冽なものへと書き換えられている。
鳴神の屋敷にも、ようやく穏やかな朝が戻ってきた。
「……志野。まだ眠いか」
朝の柔らかな光が差し込む寝室で、朔夜は隣で微睡む志野の額に、静かな口づけを落とした。
最近の彼は、定刻通りに出退勤をこなしている。
帝都懲罰省の長官として多忙を極めることに変わりはないが、凶喰の討伐という命を削る任務が減ったことで、その眼差しからは刺すような鋭さが消え、紫紺の瞳は志野を見つめる時だけは甘く潤んでいた。
「いえ……朔夜様。おはようございます」
志野が微笑んで身を起こすと、寝乱れた髪の間から、左胸に刻まれた銀華の加護が淡い光を放つ。
それは朔夜の雷を糧にして咲き続ける、二人だけの絶対的な絆の証。
「今日からは、新しい者が入る。……タネのような不埒な真似はさせんが、長老衆が送り込んできた目だ。不快ならすぐに言え」
朔夜が苦々しく告げた通り、食堂には新たな女中が控えていた。
「本日よりお仕えいたします。センと申します」
現れたのは、感情の起伏を一切感じさせない、鉄のように冷徹で正確な所作を持つ女性だった。
彼女は長老衆――いわゆる仙家純血派の重鎮たちから遣わされた者だ。
志野が「鵺の呪い」を本当に抑え込んでいるのか、その一挙手一投足を監視し、報告書を送るのが彼女の真の役目であることは明白だった。
センは、タネのように志野を侮ることも、嫌がらせをすることもない。
ただ淡々と、機械のように完璧に業務を遂行していく。
その徹底した透明な監視に、志野は時折背筋が凍るような感覚を覚えるが、それでも朔夜が毎日無事に帰ってくるだけで、胸の内の不安は霧散していった。
かつて死を待つ亡霊たちの呻きが響いていた鳴神神社は、志野から匂いたつ白銀の桜の残香に包まれ、澱んでいた仙気は清冽なものへと書き換えられている。
鳴神の屋敷にも、ようやく穏やかな朝が戻ってきた。
「……志野。まだ眠いか」
朝の柔らかな光が差し込む寝室で、朔夜は隣で微睡む志野の額に、静かな口づけを落とした。
最近の彼は、定刻通りに出退勤をこなしている。
帝都懲罰省の長官として多忙を極めることに変わりはないが、凶喰の討伐という命を削る任務が減ったことで、その眼差しからは刺すような鋭さが消え、紫紺の瞳は志野を見つめる時だけは甘く潤んでいた。
「いえ……朔夜様。おはようございます」
志野が微笑んで身を起こすと、寝乱れた髪の間から、左胸に刻まれた銀華の加護が淡い光を放つ。
それは朔夜の雷を糧にして咲き続ける、二人だけの絶対的な絆の証。
「今日からは、新しい者が入る。……タネのような不埒な真似はさせんが、長老衆が送り込んできた目だ。不快ならすぐに言え」
朔夜が苦々しく告げた通り、食堂には新たな女中が控えていた。
「本日よりお仕えいたします。センと申します」
現れたのは、感情の起伏を一切感じさせない、鉄のように冷徹で正確な所作を持つ女性だった。
彼女は長老衆――いわゆる仙家純血派の重鎮たちから遣わされた者だ。
志野が「鵺の呪い」を本当に抑え込んでいるのか、その一挙手一投足を監視し、報告書を送るのが彼女の真の役目であることは明白だった。
センは、タネのように志野を侮ることも、嫌がらせをすることもない。
ただ淡々と、機械のように完璧に業務を遂行していく。
その徹底した透明な監視に、志野は時折背筋が凍るような感覚を覚えるが、それでも朔夜が毎日無事に帰ってくるだけで、胸の内の不安は霧散していった。



