死神カイ君と死にたがりの花子ちゃん

「でも奈落や地獄。冥府の支配者がいるなら、その反対も存在する」

 フェルが視線を向けるその先。雲よりも高い空から、一筋の光の柱が突き抜けてきて、地上に射し込む。その光は犯人の凶刃に倒れてしまった人を、スポットライトのように照らした。

 すると空から、白い羽根を広げた人影が降りてくる。金色の長い髪に、青く透き通った目。陶器のように艶やかな白い肌に、純白のドレスがよく似合うふたりの女性――。

 背中の大きな2枚の羽根と、頭の上に浮いた金色の輪っかが特徴的過ぎて。ふたりの正体は、一目瞭然だった。

「天使さんだ……」

 優雅に舞い降りてくる姿が、何とも神々しい。綺麗……と感嘆の息を漏らし、優美さに釘付けになる。

「逆に不慮の事故や事件に巻き込まれ、殺されてしまった人間の元には、天使がお迎えに来るんだ」

 隣からそんな説明が聞こえた後、天使が地上に降り立った。倒れる人の手を優しく掬い上げ、何やら優しげに声を掛けている。それからふわりと。殺されてしまった人の魂が宙に浮き、ふたりの天使に導かれながら、空へと昇っていった。

 それはまるで絵画を見ているみたいだった。
 有名なルーベンスの聖母被昇天を、リアルで目の当たりにしたような光景。さっき見た光景とは真逆過ぎて、こっちはこっちで目を離すことが出来なかった。

 天国へと昇る途中、ひとりの天使が死神の存在に気付き、ぱっとこちらを見る。目が合ったフェルが手を振り、にこりとイケメンオーラ全開のスマイルを向けた。
 ドキッと驚いた様子を見せ、天使の顔が赤くなる。慌てたようにぺこぺこと頭を下げながら、天上へと姿を消した。


 何だか怒涛の光景が過ぎ去って、私はその場で余韻に浸っていた。ぼーっとしていると、背中をばしと叩かれる。

「ノートを買いに来たんだろ? 行かないのか?」

 カイの一言で現実に戻ったけど、駐車場内は騒然となっていた。
 お店の人達が避難誘導を始めていて、パニックに泣く人、倒れる犯人を興奮気味に動画に撮る人、避難に従わず逃げていく人。
 遠くからパトカーと救急車の音も聞こえてきて、とても買い物どころではなくなっていた。

「中に入っても買えないだろうから、違う所で買うよ」

 今の状況を見て苦笑を浮かべ、今日は仕方なくコンビニで買うことにする。

 踵を返し駐車場内から出ようとして、そう言えばとフェルが口を開いた。