死神カイ君と死にたがりの花子ちゃん

 そのまま男は、棺の中に引っ張り込まれていく。痛みの絶叫は上がらなくなっていたけど、手と手の隙間から、うぅぅ……と言う苦悶とも嘆きとも取れる呻き声が聞こえていた。

 男の体が棺の中に消えていき、蓋が閉まる。落ちていた鎖も宙に浮き巻かれていくと、歳上の死神さんがそれを手に取った。
 そしてここでカイとフェルの存在に気付いたのか、こちらをちらと向く。ふたりが軽く頭を下げると、彼もまた会釈を返した。

 ここで初めてまともにお顔を見て、イケオジだぁ……と思う。
 死神は皆、基本的にイケメンなんだなと考えていると、突然空間が裂け、靄の掛かった入り口が出現する。現れたその入り口の中に、棺を引きずりながら消えていった。

 きっと、死神の世界。冥界に繋がっているんだろう。

 入り口がなくなり、裂けた空間が嘘だったように元の景色に戻る。と、通り魔である男がどさりと地面に倒れた。ぴくりとも動かず、立ち上がらない様子に、周りにいた人達の空気がしんと静まり返る。
 やがて何が起こったか分からないままに、ざわざわと場がざわつき始めた。

「け、警察に電話だ!」

「救急車も呼ばなきゃ!」

 バタバタ慌ただしく動く周囲と、自分の情報とが一致しない。何かがズレている気がして、ふたりに訊ねた。

「あの男の人……って言うか、犯人の人は連れて行かれたんじゃないの? それにさっきの死神さんは……?」

 疑問に、フェルが優しく教えてくれる。

「花ちゃんは見える側だからね。さっき棺の中に引き込まれたのは、あくまでもあの男の魂だけ。だから肉体はここにあって、周りの人間からは、突然倒れたように見えるんだよ」

「そうだったんだ。なるほど……」

 あの恐ろしい光景も、私にしか見えてなかったんだと知る。でも確かにこの場にいる全員がもし見えていたら、もっとパニックになっているだろう。

「それでさっき来た人は、僕達よりも上位の死神だね。人間の世界で言う上司ってやつかな? 冥府の支配者。グリム・レクトル。この人は僕達とは違う人間の魂を取りに来るんだよ」

「事件を起こした悪い人の、とか?」

「半分正解ってところかな。正しくは、罪の中でも大きな罪――殺人、強盗致死、放火致死、強制性交等致死など。生前に、他人を殺めた罪を犯した人間を専門に狩りに来るんだ。僕達の鎌で狩るのとは違って、棺の手は無理やり魂を剥ぎ取るから、めちゃくちゃ痛いんだよ。だから間違っても、花ちゃんはそんな罪を犯しちゃだめだよ」

 分かった? と向けられる爽やかな笑顔とは正反対に、言っている言葉は何とも恐ろしい。

「んで、あの人に連れて行かれた人間は、奈落行き決定。地獄よりも更に苦しい場所で、一生を罪滅ぼしに過ごす」

 倒れた男を哀れに見ながら、カイが説明を加えた。