死神カイ君と死にたがりの花子ちゃん

「ね、ねぇ。あの人、どうにか出来ないの?」

「あぁ?」

 問いに、カイがチンピラのような返しをしてくる。

「どうにかって、何だよ?」

「その。あの人の魂を狩っちゃうとか……」

 だんだんと私の声が小さくなる。自分でも何て恐ろしいことを言ってるんだろうと分かっていたから。

 あの男の人の魂を狩ってもらえれば、この場は収まる。けれどそれは男の人の命を奪うと言うことで、遠回しに殺してと言ってるようなものだった。

 目を伏せた私を、カイは黙って見下ろす。
 するとフェルの手がぽんと頭の上に乗り、なでなでと撫でられた。

「花ちゃん、大丈夫だよ。僕達が手を出さなくたって、あいつは終わりだから」

「終わり?」

 顔を上げ聞き直すと、急に男が苦しみの声を上げ始めた。

「うっ……! ぐあああああ……!」

 握っていた包丁が手から離れる。痛いのか、頭を抱えながら、上半身を折って苦しみ出す。

「え? あの人、どうしちゃったの?」

 ねぇねぇと両方の袖を引っ張っていると、カイがぽつりと呟いた。

「見てたら分かる」

 その言葉通り、見ていると男の足元に黒い靄が現れる。纒わりつきながら円形に広がると、そこから黒い何かがゆっくりと出てきた。

 男の身長を越えた、黒い棺。開かないように、その全体がぐるぐると鎖で巻かれていた。

 異様な程の黒さと畏怖を感じさせる見た目に、思わず息を飲んで目が奪われる。するとひとりでに鎖が外れ地面に落ちると、ガシャンと重そうな音を鳴らした。

 立派な装飾の入った蓋が扉のようにパカリと開き、そこから無数の手がわっ! と出てくる。生気の感じない色白な手が、男の姿を覆い隠した。

「――あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"……!!」

 ぐしゅりと。長く先の尖った爪が男の皮膚に刺さる。離さないとばかりの数え切れない程の手が、それが全身となると、痛みは相当なものだろう。

 血こそ流れなかったけど、あまりの痛々しさに、思わずうっと目を背けてしまう。
 男からすれば更に追い討ちを掛けられるように、また目の前に黒い靄が集まり出した。

 靄が何かを形作り現れたのは、ひとりの死神――。
 カイ達と同じマントを羽織り、鍛え抜かれた恰幅に、オールバックに流した銀髪。
 左目に眼帯をする横顔には歳を重ねた渋さがあり、カイ達よりも歳上だと言うことが伺えた。

 そんな歳上の死神さんの右手が、ゆっくりと上がる。まるで男を握り潰すような動作を取ると、棺の中から勢いよく1本の腕が伸びてきて、男の心臓を貫いた。