死神カイ君と死にたがりの花子ちゃん

 朝。家を出ると、上空にふたりの死神の姿があって、びっくりして足を止めた。

「花ちゃん。おはよう」

 宙に浮いて、朝から眩しい程の笑顔で挨拶をするフェル。その隣に仏頂面をしたカイがいた。

「……おはよう。フェル。えっと、今日はカイと一緒なんだね」

「違うよ。一緒じゃなくて、花ちゃんのところに来たら、カイがいるんだよ」

「あぁ? そもそもこいつの担当は俺なんだよ。お前が関係ないんだから、さっさと仕事に戻れ」

「次のリストの人間、男だから急ぐ必要ないもん。それより花ちゃんを振り向かせたいから、片時も離れたくないんだよね」

 ねっ? と言って、フェルがウインクをする。それを受け止めた私は、あははと苦笑いを返すしか出来なかった。

 死神さんふたりに付けられるなんて。
 何か変な感じだなぁ……。

 カイひとりでも妙な居心地の悪さと言うか、常に見られていると言う緊張感があったのに。そこにフェルが加わったことで、更に視線を感じて仕方ない。

 でもこれも、カイとの約束の日まで――。
 それまではこの不思議な日常を、貴重な経験として思い出に残そうと、ふたりが言い合う下を歩いて学校に向かった。


 朝のHRが始まるギリギリに、学校の前に着く。もう数分で校門は閉まろうとしていて、生活指導の先生が準備をしていた。

 昇降口に向かう生徒はほぼいない。私も急がなければ遅刻扱いになってしまうのに。校門前で立ち尽くし、動けなくなっていた。

 その様子を空中で、カイとフェルが見守っている。

「ここって、学校ってやつ?」

「あぁ。あいつが通ってるところだ」

「へぇー」

 興味ありげに校舎を見渡すフェル達の会話は、聞こえていなかった。それより今日の学校を迎えることが嫌で――それを思うと進めなかった。

 明日は土曜日だった。土曜と日曜と、2日間学校が休みになる。
 学校も嫌だけど、家にいることはもっと嫌だった。部屋にずっと閉じ篭っていたとしても、窮屈で息苦しい時間を耐え過ごさなければならない。
 それを思えば幾分か、学校の方が楽だった。

 学校に行って、授業が終われば。
 地獄が始まっちゃう――。

 そんなことを思っても、明日は来てしまうのに。

 明日が来る辛さを考えて、校門を通ることを拒否してしまう。

 カイは、私が学校を好きじゃないことを何となく知っていた。だから見るだけだったけど。
 事情の知らないフェルは降りてきて、私の隣に立った。

「頑張ってきてね。終わったらご褒美あげるよ」

 耳の近くで囁かれたと思った瞬間。ちゅっと頬にキスをされた。

「――っ!??!」

 完全に自分の中の世界にいたので、フェルが隣に立ったことさえ気付いていなかった。なのに意識外からの不意打ちに、頬を手で押えながらふにゃあ……と腰が崩れた。

 カイがあいつ! と言う顔をする。その中でフェルは手を取って、私を立たせた。

「いってらっしゃい」

「……い、いいいってきましゅ……」

 顔を真っ赤にさせて。よろよろと歩き出す。
 フェルのキスのおかげでそれどころではなくなり、遅刻せずに校門を通ることが出来たのだった。