死神カイ君と死にたがりの花子ちゃん

 地面に頭と背中をぶつけ、痛みに目を細める。
 そんな私の肩を強く押し当てながら、馬乗りする格好で、カイが冷え冷えとした目で睨み下ろした。

「――もう1回言ってみろ」

 そこに優しさや同情はない。ただ怒りと冷酷さを宿す表情と視線に、背筋が凍える程の怖さを感じる。

 整った顔が至近距離にあっても、心臓はドキドキと鳴らない。恥ずかしさに全身が熱くなることもない。
 けれど憤懣《ふんまん》の中に、焦りと必死さが見え隠れしているように見えた。

 肩を押される力が強まる。人を殺せる程の冷たい顔をして、カイは静かに口を開いた。

「最後の警告として、もう1回だけ分からせておいてやるよ。――アンタは俺のものだ」

 冷淡な黒い瞳が、私を鋭く射抜く。
 まるで分からせようと。


「次はない。その時はフェルディヴェイルでも何でも、勝手に――」

「うわあぁぁぁん……!」

 突然泣き出した私に、カイの顔がぎょっとなる。

「何もなかったら。喜んでフェルに死なせてもらったよ! でもカイには感謝もしているし、それに約束したから! だから我慢して……約束を守ろうとしたのに……。どうして分かってくれないのぉ?」

 わぁぁんと大きな声を上げると、パッと肩から手が離れた。

「……悪かった」

「カイの分からず屋! ケチ! 怒りん坊!」

 涙が治まらなくて、思ったことを口にする。

「おたんこなす! 顔が怖い!」

「分かった分かった。俺が悪かったから、もう泣くな」

 前髪で目は見えないが手で覆って泣いていると、その手が優しく離された。

「おたんこなすって何だよ?」

 困った顔をして、カイが涙を拭う。あの時は袖で乱暴に拭いてきたのに。
 今日は指で優しく払われ、驚きに涙はぴたりと止まった。

「……おたんこなすは」

 悪口のひとつだけど、意味は知らない。
 そう言おうとして、腹の虫が大きな音を鳴らした。

「――ぎゅるるるるぅ」

 ムードも空気感も、一切をぶち壊す音。悔しさやら悲しみは一気に吹き飛び、慌ててお腹を押さえた。