死神カイ君と死にたがりの花子ちゃん

 今でも相当苦しくて痛いのに。
 このままじゃただ、苦しみながら息を引き取ってしまう。

 それはあまりに可哀想だと思った。せめて楽にしてあげられるなら、すぐにしてあげたかった。

「今の俺に鎌はない。それにそれが自然だろ? 死とはそんなもんだ」

 けれど返ってきた言葉は、あまりに冷たかった。

 いやむしろ、カイは正しい。病気や事故に遭って、死は突然やって来る。前もって分かっている死の方が稀なのだから。

 それでも。
 私と違って、この子は死にたいと思っていなかったはずなのに――。

 猫の気持ちを分かる訳がない。それでも無情に命を奪われたことが悲しくて、目の前の視界が滲み出す。

「カイ……お願い……」

 私には楽にしてあげることが出来ない。
 出来るとしたら、死神であるカイだけ――。

 そんな願いを込めて、涙を流す目で見つめる。
 最初こそ黙って難しい顔をしていたが、やがて観念したのか。深いため息が吐かれた。

「はぁー……。そのままでいろ」

「え?」

「猫。抱いてろ」

「分かった」

 有り余る腕の中で、抱き上げた猫をカイに見せる。降りてきたカイは正面に立つと、おもむろに自分の手首を噛んだ。

 ガリと鈍い音が聞こえて、口を離すと、たらりと鮮血が腕を伝って流れる。その血を飲ませるように、猫の口の中に垂らした。

「死にかけだし、子猫だから、少しの量でいけるだろ」

 言葉通り、やがて途切れ途切れだった呼吸が止まる。微かに上下していたお腹の動きも止まって、え? と声を出した。

「死神の血は、生きるものの命を奪う毒になる」

 どこか遠い目をしながら、静かに呟く。
 どことなく安らかな顔をして息を引き取った猫の頭を撫でて、カイはぺろりと血を舐めた。

「これで満足だろ? 言っとくが二度と――」

「――にも」

「あ?」

「私にも血を飲ませてぇぇ!!」

 一部始終を見守っていた私は突如、ゾンビのように襲い掛かる。それでも猫を抱いたままだったので、簡単に制止されてしまった。

「別に鎌で魂を取らなくってもいいじゃん! その血を飲ませてくれれば、私死ねるじゃんねー!?」

「出来る訳ねーだろ!」

 未だよこせと迫る私の額を押し、近寄らせまいと抑えられる。

「どうして!? カイの血で死ぬんだから、ポイントはカイの物になるでしょ!?」

「なるかも知れねーが、そもそも無理なんだよ! 命を奪うっつっても、ひと雫に致死量はほぼない。今回は瀕死の状態。体の小さい子猫だったから少量でいけただけで、人間ひとりの命を奪うとなったら、俺からほとんどの血を飲ませることになるんだよ!」