死神カイ君と死にたがりの花子ちゃん

 ヘッドライトの眩しさに目を細め、ここでようやく、車が走ってきていたことを知る。

 直前に迫る車。あっ……となって、横断歩道の真ん中で立ち尽くしてしまう。

 ――ぶつかる!
 と頭をよぎった刹那。ぐいと腕が引っ張られた。

「――プー!!」

 クラクションを鳴らし続ける車が、猛スピードで走り抜けていく。

「危ない奴だな」

 呆れたカイの声が、間近に聞こえるこの状況を、理解するには少し時間が必要だった。

 ……な。何が……起こってる……?

 私の顔はカイの胸元にあった。それだけじゃなく、体を抱き寄せられたことで、カイとくっ付く形で密着していた。

 どくんどくん――。

 何故か心臓の音が大きくなってくる。
 へとへとになるくらい、運動した後の鼓動の速さに似てはいるけど――。

 何か……違う気も――


「おい、ちゃんと確認してから行けよ」

 体を離され、仏頂面をするカイを見て、あっと我に返る。

「あいつも危なかったが、アンタも危なかったぞ?」

「うん。ごめん。ありがとう」

「はぁー。ったく言ってるそばからこれだもんな」

 見張ってて正解だなとぼやいて、カイは再び宙に浮いた。

 どくどく鳴る鼓動は、徐々に小さくなってきた。
 苦しさがなくなって、きっとこれは、あれだと思う。

 危なかったーって緊張した後とかになる、ドキドキする動悸。
 うん。絶対そう。

 恐怖や緊張の後に起きる、人間の正常な防御反応。それが起こったんだと思い込ませていると、か細く小さい声が聞こえてきた。

「にゃ……」

 掠れて、ほぼ鳴き声にもなっていない声。
 声がした方を見ると、横断歩道の端に1匹の猫が倒れていた。

「猫ちゃん!」

 急いで駆け寄り、しゃがむ。
 横断歩道を渡ろうとしていたのは私だけではなかったようで、この猫はさっきの車に轢かれてしまったのだろう。

 三毛の子猫。口から血を出して、小さな体は無惨な姿になっていた。

 助からない。

 それは一目で分かった。それなのにまだ息があって、苦しそうな息遣いをしながら、金色の目は力なくただ放心していた。

 触れることは憚られたが、そっと抱き上げて、上空にいるカイの方を見た。

「ねぇ。死神の力でこの子、助けてあげられない?」