「え?」
再び男の子が驚いた声を出す。
「じゃあ足からじゃなく、頭から落ちて。そうしたら間違いないと思うから」
「頭を下に……」
噛み締めるように呟いた彼は、こちらに向いていた体をあちら側に向けた。もう一度飛び降りようとするが、しばらくしてからははと苦笑いを零す。
「どうしよう……。怖くなっちゃった……」
笑う声が震えている。柵を掴む手が震えていた。
そんな彼を見て、私のせいだと思った。
せっかくの勇気を奪ってしまった――。
死にたいと思っても、実際行動に移すにはそれなりの勇気も、覚悟もいる。
よかれと思って止めても、決意を削いでしまっては意味がない。
後悔に頭を悩ませていると、男の子がぽつりぽつりと喋り出す。
「俺……イジメられてて。さっきも殴られて、お金も取られて。毎日毎日人間じゃない扱いを受けて、もう嫌になって。死のうと思ったんだ」
あぁ……。
やっぱり同じだ。
境遇が同じであることを理解して、黙って話を聞き続ける。
「さっき尊重するって言ってくれたけど。君も……死にたいって思うの?」
「うん。思っているよ。それこそ毎日」
「そっかぁ。一緒だね。じゃあよかったら……俺と一緒に死にませんか? 誰かと一緒なら……死ねそう」
眉を下げ、困ったような笑みが向けられた。
――きっと男の子からすれば冗談、ブラックジョークで言ったんだと思う。
けれど私は本気で答えた。
「いいよ」
あまりに迷いなく即答したものだから、男の子がえ? と慌てたのが分かった。それでも気にせずに柵を乗り越え、隣に立つ。
「え、えと、俺が言ったことだけど……。本当に……?」
「うん。本当は確実に死ねる所がいいけど、誰かと一緒なら怖くないって言う気持ちは分かるから」
そう言って笑えば、男の子は目に涙を溜めながら、うんと微笑んだ。
「君の名前は? 俺は関聡獅」
「私は鈴樹花」
「鈴樹さん。ありがとう」
お礼を言って笑う関君に、さっきまでの恐怖は感じられなかった。これからやろうとしていることに変わりはないけど――ひとりじゃないと言う気持ちが、ひと安心を与えたんだと思う。
お互い柵を背中にして、校舎下に目を向ける。
後は柵から手を離すだけだった。
雨音だけが聞こえる空間に、ぽつりと言葉が呟かれる。
「行きます」
関君の合図に、私は手を離した。

