死神カイ君と死にたがりの花子ちゃん

 ――まさか。止められるのでもなく、説得されるでもなく、むしろ助言されるなどと思ってもいなかっただろう。
 男の子は目を丸くさせて、ぽかんとする。

「……え?」

 その結果間抜けな声を出して、あれだけ興奮状態だったのに、今はすっかり勢いがなくなっていた。

 その間に距離を詰め、目の前まで迫る。落下防止柵がふたりの間を隔てるだけになって、話し始めた。

「飛び降りを確実に成功させるには、ある程度以上の高さがないとダメだよ」

「え……っと。う、うん。そうなの……?」

「うん。私、そう言った情報には詳しい方だから」

「そう……なんだ……」

 そう言って男の子は下を向く。

 ここで会話は途切れ、沈黙が流れる。それでも気まずくならなかったのは、弱い雨がいつまでも降っていたおかげだった。

 ――いつの間にか、5時間目のチャイムが鳴っていた。


 じっと様子を伺っていると、やがて男の子の顔が上がる。濡れて張り付いた前髪から目が見えて、悲哀に満ちた視線が私を見た。

「何処……。何処からだったら、死ねる……?」

 ようやく反応があった喜びよりも、アドバイスを求められた喜びに自然と笑顔になる。えっとねと、大きな声で答えた。

「私的にオススメは、駅近くにある廃ビル! あそこなら高さ的に問題ないよ」

「あそこかぁ。あのビル、確かに高いもんね」

「うん。探せばもっとあると思うけど、ここからならそこが一番近いかな」

「そっか。ありがとう」

 小さい声でお礼が言われた後、苦笑を浮かべながらねぇと呼び掛けられた。

「君は……俺を止めないんだね。普通の人なら止めそうもんなのに」

 その問いを聞いて、私の笑顔が消える。
 真剣に。まっすぐに。男の子に向き合って、口を開いた。

「止めないよ。私はあなたのその気持ちを尊重し、肯定する側だから」

 この言葉で男の子は理解したんだと思う。
 自分と同じなんだと――。

 泣きそうな顔をしながら、苦しそうに、気持ちが吐露された。

「ごめん……。やっぱり俺、ここで死にたいんだ。学校で飛び降りるからこそ意味があって……。だから、ここから飛ぶよ」

 理解したのは私も同じだった。この男の子もまた、自分と同じ境遇にいるんだと。

「誰かを見返したい?」

「うん。俺がここで死ぬことで、そいつらが学校に来る度に思い知らせてやりたいんだ。自分のせいで俺が死んだ、ってことを」

 ――彼の気持ちは痛い程に分かった。
 見返してやりたい気持ちも、後悔させてやりたい気持ちも。

 それが例え自分の命と引き換えになったとしても。
 少しでもその人の罪悪感の一部になれるなら――。


「分かった」