死神カイ君と死にたがりの花子ちゃん

 髪を振り乱して、校舎棟に戻ってきた私を見た生徒がげっと声を出す。

 うわ。怖。キモ。そんな嘲った言葉が聞こえない程に急ぎ、屋上への階段を駆け上がる。
 そこに男の子がいると言うことは鍵は開いたままで――拒否されることなく開いた鉄製の扉が、バン! と大きな音を鳴らした。

 大きな音がしたこと。誰かが来てしまったこと。どちらにも驚いたのだろう男の子が、ビクッと大きく肩を跳ねさせる。

 男の子は柵を越えて向こう側にいた。足ひとつ分もない足場に立ち柵を掴んで、辛うじてこの場に留まっている状況。
 少しでも足を踏み外したり、手を離せば――簡単に落ちていくだろう。

「待って!」

 そんな状況に、大きな声で飛び降りを止める。

 突然やって来た私に明らかな戸惑いを見せるその子は、男の人にしては背が低かった。でっぷりとお腹が出ているまではいかないが、少しぽっちゃりした体型。短い黒髪に、何より親近感が湧いたのは――私と同じように、長い前髪が目を隠していた。

 おろおろと。どうしよう? と慌てていた男の子だったが、私が少しずつ近付いていくので、大きく口を開いた。

「来るなっ!」

 その一言で、ぴたと足を止める。万が一にも飛び降りられてはいけなかった。

「お、俺を止めるな! 第一に君と俺は初対面だろう? 止められる権利はないはずだ!」

 男の子の言い分はごもっともだった。彼と私は初対面。何なら同じ学校の生徒であるが、見たことも会ったことも、記憶にすらない。

 しとしとと降る雨が全身を濡らしていき、前髪が肌に張り付く。髪と髪の間に出来た隙間から除く目で、じっと男の子を見つめた。

「君には関係ないだろう! 俺は本気なんだ! だからこのまま飛び降りさせてくれ!」

 慌てていた心理状態は興奮に変わっている。
 ほんの些細なことがきっかけになって、手を離してしまうことは見て取れた。

 だからその場で叫んだ。

 彼のその気持ちを。
 否定する気は、毛頭なかった――。


「この高さからじゃ、打ちどころが悪くない限り死ねないよ!? 中途半端に苦しんで、病院で延命されるだけ! 飛び降りて死にたいんなら、もっと高い所じゃなきゃダメだよ!」