死神カイ君と死にたがりの花子ちゃん

 落下。身を投げ出した、一瞬。

 ぐいと腕を引っ張られる感覚に、浮遊感がなくなった。

「――死ぬなって言っただろ」

 少しの苛立ちが含まれた声に後ろを振り向くと、いつの間にか戻ってきていたカイがいた。私の腕を取り、困ったではなく、何やってんだ? と言った表情で、飛び降りを止めた。

「アンタ、俺と約束したよな? まだ死ぬなって」

 忘れた訳じゃねーよな? と怒りに眉が寄せられる。

 最初は何が起こったのか、よく分からなくて。どうして死ねなかったんだろう? と呆然としていた。けれどカイを見つめている内に、だんだんと氷が解けていくみたいに、心の中を支配してした死の感情が薄れていった。

「……う」

「う?」

 訝しく何だよ? と聞き返された直後、うわーん! と大声を上げた。

「こんなところに取り残されて。私、どうしたらいいか分かんないじゃん!」

 あまりの大声を耳の傍で上げた為、カイの顔が歪む。

「せめて、ここから下ろして行ってよ! バカバカバカ!」

 不安、寂しさ。心細さから解放されて、一気に感情が爆発する。バカバカとカイの胸をグーで、ぽかぽかと叩いた。

「悪かった。正直それは考えてなかった」

 自分は空を飛べるので、下ろすと言う考えには至らなかった。そのことを素直に謝ってくれたが、未だ私が叩き続けるので、むっと苛立ちが露になった。

「分かったから、止めろ」

 手首が掴まれ、叩く動作を止められると、糸が切れたみたいに力が抜けていった。ぺたんとその場にへたり込み、う、うぅと泣く。

「もう本当に……。ひとりで不安だったんだからね」

 すんすんと鼻をすすれば、カイが私と同じ視線の高さに合わせてしゃがんだ。

「悪かったって。あー、だから泣くな」

 長いマントの袖で、涙が拭われる。前髪で目が見えないから、泣いていると思われたらしい。
 実際のところ泣きマネで、涙までは出ていなかった。

 乱暴に、ごしごしと目元が拭かれる。
 困りながらも気遣いある対応に、雑だけど、優しいな……。と、泣きマネが止まった私は、そう思った。