死神カイ君と死にたがりの花子ちゃん

◇ ◇


 ――すでに日が落ち真っ暗になっていた空は、更に色濃く夜に染まっていた。

「はっくちっ!」

 夜になってきたことで気温が下がり、寒さからくしゃみが出る。泣いて出てきたものとは違う鼻水を、ずっとすすった。

 ――まさか。こんな高層タワーの頭頂部にひとり、取り残されようとは。誰が思うだろうか?

 カイが冥界とやらに帰ってしまったことで、下りる手段を失った私は、どうすることも出来ず、そこに座って留まっていた。

 最初こそその内カイが戻ってくるだろうと短絡的に思っていたが、そんな気配すら訪れない。
 運良く飛行機がタワーに座る人影を見付け、タワー会社に報告。または監視カメラに不審人物が映り、管理会社が駆け付ける――なんて言う助けも期待したが、何も起こらなかった。

 そうして時間だけが無情に過ぎ、どうしようもならない心細さから、体育座りをして顔を膝に埋める。

「寒いし、お腹空いたし、トイレにも行きたいよぉ……」

 もう何時間ここにいるのか? スマホを持って出てこなかったから、時間が分からない。
 そして家を出たのが夕ご飯前だったこともあり、さっきからお腹がぐぅぐぅと鳴っている。

 きっと今頃はもう、私が家にいないことを知っただろうな。
 怒っているか、無関心か……。

 夕ご飯が残っているといいな……。

 もしかしたら処分されてしまうかも知れない。そう思うと余計にお腹が空いて、またぐぅとお腹が鳴った。

 お腹が空き過ぎて力が入んないし、気持ち悪くなってきた……。

 ぎゅっと。更に背中を丸めて縮こまると、太ももに違和を感じた。そう言えばとスカートのポケットの中に手を入れると、猫用のおやつが出てきた。

 ――おばあちゃん家に飼っている猫はいない。でも野良猫か近所の猫か、よく1匹の猫が遊びに来た。

 茶トラのその子はとても人懐っこくて、おばあちゃんと私の顔を見て、にゃーと鳴いて近付いて来てくれた。
 その甘えん坊な男の子をちゃちゃと呼んで、やって来た時におやつをあげたりしていたけれど。おばあちゃん家に行けなくなってから、おやつだけが家に余っていた。

「これでも食べる?」

 お腹が空き過ぎてそんなことを思うが、いやいやと苦笑を浮かべて、もう一度ポケットに入れた。


 ――口から出た独り言が闇の中に溶けて消えると、再びしーんとした、静寂な空気に包まれる。

 この場からどうすることも出来ない現状が、じわじわと。私をネガティブな思考に堕とし始めた。