死神カイ君と死にたがりの花子ちゃん

◇ ◇


 ――花と別れ、カイは冥界に戻ってきた。赤黒い空の下、宙に浮いた状態でフードを下ろす。

 冥界は地球と違って、ごみごみと建物や住宅などの建設物は立ち並んでいない。けれど山や森、海があって自然豊かと言う訳でもない。
 ただ砂漠のように、荒野が彼方まで続いているだけ。

 また太陽の明るさや、月の輝きもない。どちらも現れることはなく、四六時中夕焼けのような空が広がるだけだった。

 そこに不満はないし、疑問もない。
 ただ冥界に戻れたと認識してから、カイはある方角に向かって飛んでいった。

 変わらない景色だけが流れていき、やがて目の前に一本の巨木が見えてくる。遠く離れた場所からでも、かなりの大きさを誇っている。
 人間何千人分となるような高さでそびえ立ち、また何千人が輪になる程の太い幹。幹の回りには螺旋階段があり、樹冠の太い枝の上にある建物に上ることが出来た。
 その建物は家屋ではなく、工房である。

 普段死神達が、この工房に足を運ぶことは滅多にない。ある時期だけに訪れ、それを境に出入りはとんとなくなる。

 また空を飛べる死神に階段など必要ないが、その時期だけ、螺旋階段にはずらっと行列が並ぶ。


 カイはその巨木に向かっていき、工房の扉の前に降りた。
 ツリーハウスらしい木造の工房は、こじんまりとしていて、とても小さい。屋根はいわゆる三角ではなく、平らになっている。植物が根を張って覆い尽くし、ところどころ花が咲く屋根は、ある意味オシャレな外観になっていた。

 扉を前にして、カイは一度佇まいを正す。それからコンコンとノックした。

「はぁ~い」

 抑揚のない返事が聞こえてきて、扉を開ける。電気の付いていない室内に、ひとりの男がソファからむくりと起き上がった。

「ふあぁー……。何の用?」

 昼寝か仮眠か。とにかく睡眠中だった男は大きなあくびをしながら、アイマスクを外した。

「なに~? カスタムしたいの~?」

 寝起きで余計に力の入っていない声を出すこの男は、工房の主。
 死神の鎌を提供する、唯一の人物だった。

 良く言ってパーマが掛かったような――ボサボサの銀髪に、目の下には黒く濃いくま。唇に2連のピアスを着けている。

 室内の明かりを付け、まだぼんやりとした表情でこちらを見る男に、カイはすぐに本題を切り出した。

「エンバー。鎌を直して欲しい」