死神カイ君と死にたがりの花子ちゃん

「――勝手に死ぬんじゃねーよ」

 男の声が聞こえたと思った瞬間、落下が止まる。と同時に腰を抱きかかえられる感触がした。

 ゆっくり目を開くと宙に浮いていて、ほっと安心する男の顔が近くにあった。

「どうして……?」

 どうして死なせてくれないの……?

 落ちた緊張の糸がぷつりと切れて、また涙が浮かび上がってくる。
 男は不満そうな顔をしながら、口を開いた。

「理由は気に入らないが、アンタに自死されちゃ困るんだよ。アンタの魂は俺が狩る。それ以外は認めない」

「そんな殺生な……」

 じゃあどうしたら……? と言う視線を向けていると、人差し指が強めに額に押し当てられた。

「いいか? 俺が絶対にアンタを死なせてやる。だからそれまでは死ぬな」

 愛の告白――とは、余程程遠いセリフである。
 でも私からすれば告白みたいなもので――涙に濡れた目で、じっと男を見つめた。

「……それまで待ってろってこと?」

「そうだ」

「その時は、絶対に死ねる?」

「あぁ」

「じゃあ。分かった」

 あっけらかんとする程に、私は元気よく答える。聞き分けのいい子供みたいににこーと笑い出すと、男ははぁとため息を吐いた。

「ホント……調子狂う」

「え?」

「何でもねーよ」

 聞き取れなかったので聞き返したが、ふいと顔を逸らされる。空中で止まっていた私達だったが、ゆっくりと浮上を始めた。

「今更だけど……。アンタ、俺のこと怖くないのか?」

「何で?」

 唐突な質問に、はて? と首を傾げる。

「仮にも死神だぞ? 俺が死神だと分かると逃げ惑ったり、泣き喚いて懇願する人間が大概だった」

「あー……まぁそれはそうでしょうね。私も死神さんが死神じゃなくって、首なしお化けだったり、血まみれの幽霊だったりしたら、喚いていたと思うけど」

「はぁ?」

「だって私からすれば、死神なんて願ったり叶ったりの存在であって。目の前に降臨されたとなったら、そりゃ発狂しますわ」

「アンタ、本当に変わってるよな」

 呆れられた物言いではあったが、事実だと思っているので特に否定はしない。

「でも死神さんて、イメージしていた程怖くないよ? 私が奇異の目で見られないよう、あの場所から連れ去ってくれた訳でしょう? むしろ優しいなって思う」

 素直に。純粋に思っていたことを伝える。
 最初こそ、は? と驚いた顔をした男だったが、やがて何かを言いたげに口を開いて、代わりにはぁと息を吐いた。

「その、死神さんて止めろ。俺はカイだ」