死神カイ君と死にたがりの花子ちゃん

 言葉にしてしまうと、涙が溢れ出る。頬を伝って、ぽろっと落ちていく。

「時間がない?」

 生きたいのに時間がない、なら分かる。でも時間がないから死にたいなんて、意味が分からないと思う。
 そんな訝しさが、声音から感じられた。

 流れる涙を拭くこともなく、私は後ろに向き直った。

「ねぇ。あの鎌じゃないと、私を殺せないの?」

「そうだ。肉体から魂を切り離すのに、あの鎌じゃないと出来ない」

「じゃあやっぱり……私は死ねないってこと……?」

「あぁ」

 改めて突き付けられた現実に、涙はどんどんと溢れてくる。

「やっと……死ねる、って思ったのに。嬉しかったのに。死神が来て……間に合ったって……」

 悲しみが絶望が。話す声を震わせる。
 泣いている私を、男は同情を持たない目でただじっと見ている。

「私……おばあちゃんが生きている間に死にたいの……。おばあちゃんが死んじゃったら、悲しんでくれる人がいない。だから……私には時間がないのに……」

 立ち上がって、男の前に駆け寄る。胸元の服を掴んで、ねぇ! と呼び掛けた。

「あなた死神なんでしょ!? だったら鎌以外の方法で、私を殺してよ!」

 ぼろぼろと涙を流して訴える。長い前髪で私の目は見えないけど、見下ろす男の目は何とも冷たい。

 掴んでいた私の手を払い、はっと鼻で笑った。

「何かと思えば。くだらねー。自分がひとりになりたくないから、先に死ぬだなんて。ホント人間て、身勝手な理由で自死するよな」

 だから仕事増えんだよなぁと、呆れた大きなため息を付かれる。
 そんな男の態度に、私の感情は爆発してしまった。

「――たに。あなたに私の気持ちなんて、分かる訳ないでしょ!?」

 私だって、こんな風になりたかった訳じゃない。
 普通に。家族と仲良く。
 学校で友達と、楽しく毎日を過ごしたかっただけなのに。

 どこで間違えてしまったのか?
 どこがダメだったのか?
 分からないままに、今の私になってしまった。

 今の私に向けられる悪口や誹謗。
 蔑まれた視線が、どれだけ辛いか分かる!?

 叫んで、バカにしたような表情の男をぐっと睨み付ける。

「もう別にあなたに殺してもらわなくていい! 自分で死ねるから!」

 そう言って一歩、後ろに下がる。本当は背を向けて落ちようとしたけど――下がった一歩は、自分が思った以上に大きかった。

「――っ!?」

 ずるっと足を踏み外し、意図しない形で、体が宙に投げ出される。

「お、おい!」

 慌てて男が手を伸ばしたが、掴まれることなく。私の体は背中から落ちていった。


 ――――あっ。


 落ちるのは一瞬だった。
 これまで飛び降りることを躊躇っていた想いが、簡単に壊れされるくらいには。

 ものすごい速いスピードで落ちていく。
 伸ばした右手が空を切っていき、にこ……とぎこちない笑みを浮かべる。

 そうして、そっと目を閉じた。