死神カイ君と死にたがりの花子ちゃん

 高層ビルを越え、一瞬で地上を見下ろす景色になる。歩く人や、道を走る車が豆粒程の大きさになったのをぼーっと見ていると、都のシンボルでもあるタワーが近付いてきた。

 タワーの登頂。関係者以外は立ち入れない、人が4人程しか立てない場所に降りていく。ふわりと優しく男の足が着くと、私を立たせて離れた。

「ここなら人目に付かねーだろ」

 吐き捨てるようぶっきらぼうに言うので、すっかり涙が引っ込んだ私は、きょとんとして尋ねる。

「別に私は周りなんて気にしないよ?」

 いつだって周囲から、疎ましいものや嫌悪を抱いた目で見られている。無視や避けられることにだって慣れている。

 けれど男は不快に眉を寄せると、大きなため息を吐いた。

「俺の姿は普通の人間には見えねーんだよ。俺のことが見えるのは死ぬ間近の人間だけだ。だから周りからはさっきのアンタは、ひとり不気味にギャーギャー騒いでいる変人として映ってたんだよ」

「え……? 声も聞こえていないの?」

「そうだよ」

「鎌も見えてないの?」

「当たり前だろ」

「え!? 私、おかしい奴じゃん!」

「だから人の目に付かない、ここに移動して来たんだろーが」

 まさかそんなことになっているとは思わず。変人狂人、クレイジーヤロウとして見られていた自分に、大きな声を出してしまう。
 しかしふと冷静になれば、いつもと変わらないなと思った。

「お気遣いありがとう。でも変人として見られるのは、いつものことだったわ」

 ふっと悲しくなり、その場にしゃがむ。立ち入り禁止場所となっているここは落下防止柵はなくて、床から足を投げ出して座った。

 地上から何100メートルと離れた天上で、足をぶらぶらと揺らしてみる。落ちたら一巻の終わりだけど、自分を蔑む気持ちの中では、妙に楽しい気分になった。

 あははと自嘲する私に対して、背中越しに男が訊ねる。

「アンタは死ぬことが怖くないのか?」

 それを聞いて、ぴたと揺らしていた足を止める。じっと、正面の空を見つめながら答えた。

「怖くないよ。いつだって死にたいって思っているし」

「どうしてそんなに死にたいんだ?」

 彼からすれば素朴な疑問だったのかも知れない。気になったから聞いてみた、程度のレベル。
 でもその質問は私からすれば核心を突くもので――止まっていたはずの涙がじわりと出てきた。

「……私には……。時間がないの……」