#レモンフィルター

 十月末。
 そうだ、この頃から果歩ちゃんは変わり始めていた。

 彼女の目は、いつも少し赤かった。

「コンタクトレンズが合わないのかな」って、クラスのみんなは言っていた。

 保健室によく行くようになったのも、この頃からだった。

 でも、私は気づいていた。果歩ちゃんの瞳の奥に、何か透明な膜が張ったように見えることに。
 彼女が私を見るとき、その視線は私を通り抜けていくようだった。
 まるで、私が透明人間になったみたいに。
 
 それに、この頃から果歩ちゃんは、いつもレモンの匂いがした。
 教室で隣に座ると、柑橘系の、でも少し刺激的な匂いが漂ってきた。
 最初は香水かと思ったけれど、もっと生々しい、果肉と汁が混ざったような匂い。

 ある日、果歩ちゃんが机の引き出しから何かを取り出そうとしたとき、中身が見えた。
 レモンの小瓶が三本。
 目薬のような容器に入った、黄色い液体。
 
「これ、何?」って聞いたら、果歩ちゃんは慌てて引き出しを閉めた。

「ビタミンC。肌にいいんだよ」

 そう言って笑ったけれど、その笑顔は引きつっていた。
 今になって思えば、あれがレモンの果汁だったんだ。
 毎朝、目に入れていた。

 自分の視界を浄化するために。

 てか、浄化ってなに?
 普通に痛いよね。目にレモンいれたら。
 頭おかしい。

 私は次の投稿を開いた。
 画面の中の日付が、今日に少しずつ近づいていく。