孕みの濁-ハラミノダク-



 そんなこんなで時間を潰し、十七時十五分頃に芳守さんが帰宅した。
 三人で一階のリビングに向かい、芳守さんと対面する。芳守さんはとても気さくな人で、初対面でも緊張感なく話しやすい雰囲気のある人だった。

 芳守さんは、一旦部屋に荷物を置いてくると言ってリビングから退出する。その間に俺と優雨は、窓際に置かれたソファに並んで座って待機した。十分くらいして戻ってきた芳守さんは向かいのソファに腰を下ろす。湊斗はキッチンの方で母親と一緒に夕飯の準備をしていた。

「急なお願いにもかかわらず、お時間をとっていただき本当にありがとうございます」

 優雨が改まった口調で丁寧に頭を下げるのに合わせて、俺も頭を下げる。

「そんなにかたくならないで。気楽に話そう」

 芳守さんはにこやかな笑顔を浮かべた。
 話す場ができたところで、俺たちは面と向かって空き家に関する情報が知りたいことを簡素に伝えた。芳守さんが口を開く。

「確かにあの家には幽霊が出る噂があったよ。過去の入居者の中にも幽霊を見たって言って退去した人がいたって話を管理会社から聞いてるんだ」

 新しい情報が得られる期待が高まる。

「俺はあの家を一年の契約で事務所代わりに借りていたんだけど、理由はまぁ簡単に言えば、あの空き家の近くにある工事業会社との仕事をしやすくするためだったんだ」

「その会社って、生見土建のことですか?」

 俺が訊くと、「そうだよ」と芳守さんは軽く頷く。

「俺の職業は建設コンサルタント業でね。社長の息子さんで現場責任者の生見茂(いくみしげる)さんとは、その頃に仕事関係で繋がりができたんだ。俺が会社の近場で事務所代わりになるアパートを探していると言ったら、生見さんが近くに『訳あり物件』の借家があると教えてくれたんだよ。一軒家は贅沢かなと思ったけどとりあえず管理会社に行ってみたら、一年契約OKでしかも家賃をかなり安くしてもらえたから、ほぼ即決だったよ」

 芳守さんは荷物を置いて戻ってきた際に手に持っていた二枚の用紙を、それぞれ俺たちに向かって差し出した。

「ここに、管理会社の経営者から聞いた過去の居住者の情報が載ってるよ。名前の漢字に関しては口頭だったからカタカナで書いてある」

 俺たちはお礼を言って受け取った用紙に視線を落とす。用紙には、手帳かノートの見開き二ページ分の手書きメモがコピーされていた。

「すごく詳しく書かれていますね」

 優雨が驚いたように顔を上げると、芳守さんは軽く笑いながら言う。

「当時話を聞きながらメモをしていた手帳のことを思い出して、さっき部屋でそのページをコピーしてきたんだ。社会人になってからずっと紙の手帳を使い続けているんだが、スマホ時代の今でも手帳に書いてメモをとる癖が残っていてね。使用済みの手帳も捨てずにぜんぶ残してあるんだ。数年前の手帳がこうして役に立って良かったよ」

 芳守さんに感謝しながら、几帳面な文字に目を通す。そこにはこう書かれていた。


 ■70年代に建てられた家。
 ・所有者の名前はホリキタ キヨシ。
 ・高齢男性。
 ・2004年頃から借家になる。

 ■2005年2月〜2006年2月
 ・最初の入居者。
 ・ナカヤマ シオリ(30代 女性)
 ・一人暮らし。
 ・1年で退去。

 ■2008年6月〜10月
 ・2組目の入居者。
 ・ヤマシタ(20代の新婚夫婦)
 ・二人暮らし。
 ・約4ヶ月で退去。
 *退去の手続きに来た夫から妻が行方不明になったと聞いている。

 ■2009年4月〜7月
 ・3組目の入居者。
 ・カトウ(両親と小学生の子供2人)
 ・4人家族。
 ・約3ヶ月で退去。

 ■2010年10月〜11月
 ・4組目の入居者。
 ・フナバシ(高齢夫婦)
 ・二人暮らし。
 ・約1ヶ月で退去。
 *家族の人が退去の手続きに来た。夫婦で老人ホームに入居させるなどと言っていた。

 ■2011年11月
 ・5組目の入居者。
 ・シマ ハジメ(30代 男性)
 ・一人暮らしのサラリーマン。
 ・一週間で退去。
 *退去時に「幽霊が出る」「たくさんの赤ん坊の泣き声がする」「巨大な赤ん坊の幽霊がいる」などと言っていた。
 *この頃から幽霊が出る家という噂が広がる。

 ■2012年〜2014年
 ・入居者なし。

 ■2015年6月〜2016年6月
 ・俺が一年間の契約で入居する。



「あの家の管理会社はほぼ一人でやっているような小さな会社だったんだ」

 芳守さんは過去を思い出しているのか遠い目をする。

「経営者の名前は山内(やまうち)さん。俺があの家を出た数ヶ月後に会社は倒産しているね。東北出身の気さくな人で、契約時には彼から『あの家は心霊的な噂があるいわくつき物件なんだけど大丈夫ですか』って言われたよ。事前に生見さんからも訳あり物件だと聞いていたし、何より俺は怖いよりも興味が湧いてしまってね。山内さんから過去の居住者の情報を聞き出した上で、入居することを決めたんだ」

 幽霊が出るとか気にしないタイプの人なんだろう。俺はそう思いながら口を開く。

「あの家で何か怖い体験をしなかったんですか?」

「それが全くしてないんだよ。入居する前に念のため神社の御守りを買って持って行ったんだが、その効果があったのかなぁ」

 御守り程度で霊障を受けなかったとは思えない。あの家の内部に足を踏み入れていた過去があってもこうして元気に暮らしているということは、芳守さんは運良く何も影響を受けなかった人なんだろう。

「山内さんの居場所はご存知なんでしょうか?」

 優雨が問うと、芳守さんは困ったように眉尻を下げた。

「俺の方ではわからないんだ。地元に戻ったんじゃないかと勝手に思ってる」

「あの家の所有者は、行方がわからないと聞いています」

「ホリキタさんは亡くなっている可能性が高いかなぁ。山内さんから、独り身の高齢男性で天涯孤独な人だと聞いていたから。俺はホリキタさんと直接会ったことも、電話等で話したこともなかったよ。生見さんにも仕事中にちょっと話題をふったことはあったけど、一度もホリキタさんの姿を見たことがないと言っていたね」

 芳守さんはそう言って一息つきながら腕を組む。

「県道が整備される以前、あの辺り一帯は森の一部だったんだ。県道ができた以降も更に森を伐採して公園なんかを造る計画もあったみたいだけど、その工事に関わる人の間で体調不良や事故が多発して中止になったそうだ。生見さんの会社でも2004年頃に敷地スペース拡大のために森を伐採する工事をやってたんだけど、多発する事故で中止せざるを得なくなったと話していたよ。家だけじゃなく森もいわくつきなんだろうね」

 俺は手帳に書かれたカタカナの名前をじっと見つめる。
 所有者の『ホリキタ キヨシ』
 入居者の『ナカヤマ シオリ』『ヤマシタ』『カトウ』『フナバシ』『シマ ハジメ』
 過去の入居者に、のうがわはいない。

「あの、すみません」

 俺は顔を上げて訊く。

「あの辺りの地域で、のうがわって苗字の人に会ったり、聞いたりしたことってないですか?」

「のうがわ?」

 芳守さんは首を傾げた。

「会ったことも聞いたこともないなぁ。その人を捜しているの?」

「えっとまぁ、そんな感じです」

 ここでも謎は解けなかった。
 でも俺はなんとなく、俺の前にちょくちょく現れる女の幽霊がそうなんじゃないかという気がしていた。仮にそうだとして、女の幽霊の正体がまだはっきりと分かっていない。

「あ、そういえば……」

 芳守さんが独り言のように呟いた。

「今ちょっと一つ思い出したよ。まぁでも、あんまり必要ない情報かな」

「どんなことでもいいので、教えていただけると助かります」

 優雨が真剣味を帯びた目で言うと、「そう? それじゃあ」と芳守さんは話し出す。

「二階の部屋に収納スペースがあって、その中の隅っこに名刺が一枚残されていたんだ」

 俺は記憶にある二階の部屋を思い出してみる。フローリングの洋室には広めの収納スペースが備え付けられていた。

「最初の入居者だったナカヤマシオリという女性の物で、落ちていることに気づかずに退去したんだろうね。でもその名刺は彼女の物じゃなくて、彼女の妹さんの物らしかったよ。名刺のQRコードを読み込んだ先が、妹さんが書いているブログだったんだ。妹さんの名前はカオリさん。漢字も簡単だったから覚えてる」

 言いながらボールペンを取り出した芳守さんは、テーブルの上に置いていた俺の方の用紙の空白スペースに『中山香』とフルネームを漢字で書いた。

「妹さんは高知県出身で、高知の自宅で着物リメイクの教室を開いているとブログに書いてあったよ。いくつか読んだ記事の中に、双子の姉と今は離れて暮らしていると書いてあったから、シオリさんとカオリさんは双子の姉妹なんだなと思ったんだ」

 中山香の双子の姉である最初の入居者シオリさんは、2005年二月から2006年二月の一年で退去をしている。その後も入居者がいたのに、芳守さんが名刺を見つけるまで誰も気づかなかったのは驚きだ。まぁ名刺は小さくて薄っぺらいし、薄暗い収納スペースに落ちていたなら気づかないだろう。

「その名刺って、持ってたりします?」

「悪いかなと思ったけど、その場で処分したよ」

 俺が訊くと、芳守さんは困ったように答えた。

「父さん、ご飯できたけど」

 エプロンを外しながら近づいてきた湊斗が言った。時計を見るともう十八時を過ぎている。そろそろおいとましたほうが良さそうだ。
 俺たちは丁寧にお礼を言って、姫宮家を後にした。



 暗くなった住宅街を並んで歩く。
 そのまま真っ直ぐ帰る気になれなかった俺たちは、近くに小さな公園を見つけてそこに入って行った。ベンチに座った優雨は足を組むと、チュッパチャプスを取り出して口に咥えた。
 芳守さんから得られた情報とメモの中に、呪いを解くためのヒントか何かが潜んでいるのか。その可能性が少しでもあることを祈るように、俺も優雨の隣に座って、一度頭の中を整理する。

「中山香さんのブログ、見つけられねぇかな」

「まぁそれも気にはなるな」

 そこで俺たちはスマホを取り出し、『中山香 着物リメイク 教室 高知 ブログ』などと単語を打ち込んで検索してみた。検索結果に表示された青字の見出しから、それらしいページを開いて確認していく。

 互いに無言で作業する中、俺は何度目かで開いたページを見て、おや、と思った。『着物リメイク 香り教室』というタイトルのシンプルな作りをしたブログだ。
 ブログは今も更新されていて、最新記事は2025年のゴールデンウィーク中。着物の生地で試作したという巾着袋を写真付きで紹介した内容だった。
 テーマ分けされた記事一覧の中から『自己紹介』を開く。記事は二つしかなく、一番古い記事は2004年。最新は2015年だ。
 2015年の記事を開いて読んでみる。



 改めて自己紹介をさせていただきます。高知県土佐市にある自宅で着物リメイク教室を開いている中山香(なかやま かおり)と申します。
 中学生の頃から着物をリメイクして小物を作る趣味を楽しんでいました。自宅で教室を開きたいと思い始めたのは社会人になってからですが、そこから資金を貯めて資格を取得し、2004年に夢だった教室をオープンすることができました。
 オープンした頃はいろいろ苦労もありましたが、今ではたくさんの生徒さんを抱えて充実した日々を送っております。
 こうして長年続けられているのも皆様のおかげです。ありがとうございます。
 今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。

 お問合せや体験レッスンのお申し込みは、下記よりお気軽にお問合せください。

『着物リメイク 香り教室』
【電話番号】
 □□□-□□□-□□□□
【受付時間】
 平日・土 9:00〜17:00



「あっ」

「どうした?」

「見つけたぞ優雨。中山香さんのブログ」

 優雨に身を寄せてスマホ画面を見せる。スマホから顔を上げた優雨はちょっと驚いたように目を大きくして俺を見た。

「よく見つけたな」

「姉のシオリさんについて書いてある記事も探してみようぜ。もしかしたらシオリさんにも連絡とって会うことが出来るかもしれねぇし」

 分担して記事を確認することにした。優雨が古い年度から、俺が新しい年度からチェックしていく。
 ほとんどが教室風景や完成した作品を紹介する記事だ。日常生活に関する記事は少ないが、休日の遠出先で撮った景色やご飯などの写真が載っていた。人物の写真は胸元から下だけか、顔をスタンプで隠しているものばかりだ。記事の内容はとてもシンプルですぐに読み終わるから作業が苦にならない。

 しばらく無言の時間が流れた。
 目を通して次の記事に進んでいると、先月の一つに『今日は私の誕生日。55歳になりました』というタイトルで、知人から誕生日をお祝いしてもらっている内容の記事があった。
 その記事を読みながら画面をスクロールさせると、一枚の写真が表示される。ホールケーキが置かれたテーブルを前にして微笑んでいる和服姿の女性。カメラ目線のその顔は、スタンプで隠されていなかった。
 中山香さんは、品のある雰囲気を纏った優しげな女性だった。実年齢よりも十歳くらい若く見える。

「あれ……?」

 どこか見覚えがあるように感じた。その顔をじっと見て、背筋にゾッと悪寒が走る。
 女の幽霊の顔に似ている……いや、そっくりだ。
 女の幽霊より多少は老けているけど、あまりにも似ている。
 一体これはどういうことだ?
 予期せぬ展開に混乱気味になった俺は、隣にいる優雨を呼んだ。

「優雨、ちょっとこの写真を見てくれ」

 優雨は言われた通り俺のスマホ画面に表示された写真を見る。「この女性が中山香さんか」と呟いた優雨に、俺は微かに震える唇を動かして言った。

「女の幽霊の顔に、そっくりなんだ」

「は?」

 視線を上げた優雨は驚いた顔に若干の戸惑いを浮かべた。

「つまり、なんだ……女の幽霊の正体は、中山香さんだってことか?」

「でも生きてるよな。生き霊って考えもなくはねぇけど……。もしかすると、双子の姉のシオリさんが亡くなってる可能性が」

 女の幽霊の正体がシオリさんだとしたら……。

「姉について知る必要がある」

「中山香さんに連絡をとって確認するか」

 ブログに書いてある電話受付の時間はとっくに過ぎているが、一応試しに優雨が電話をした。しばらくしてスマホを持つ手を下ろした優雨は、ため息混じりに言う。

「出ないな。仕方ない、明日電話し直そう」

「あぁ……」

 帰るか、と言って優雨が立ち上がった。俺も重い腰を上げて、二人並んで歩き出す。

 呪いを解く答えに近づいている。
 けど呪いの深部に触れていけばいくほど、未知の危険が待ち受けているような気がして、どうしようもない不安に襲われた。


    ◆

 五月二十七日、火曜日。

 昼休みに、俺は優雨と二人きりで屋上に向かう階段の踊り場にいた。優雨は壁に背中を預けて耳にスマホを当てている。

『はい、着物リメイク香り教室の中山です』

 スマホから響く柔らかな女性の声は、優雨の目の前に立っている俺の耳にも届いた。

「突然のご連絡失礼いたします。僕は水原優雨といいます。中山香さんでしょうか」

『はい、私がそうです。体験レッスンへのお申し込みですか?』

「いえ。あなたの双子のお姉さんの件でお聞きしたいことがあるんです。今お時間よろしいでしょうか」

『――……』

 息を呑む気配が俺にも伝わってくる。優雨はかまわず言った。

「お姉さんに連絡をとりたいんです。連絡先を教えていただけないでしょうか」

『……どのような理由か教えてください』

 香さんは警戒心があらわれた重たい声で言った。優雨は落ち着いた口調で理由を話す。

「お姉さんが神奈川県にある一軒家を借りて住んでいたことはご存知でしょうか」

『……それが何か?』

「僕は訳あってその家に関する情報を集めているんですが、現在空き家になっていて所有者や管理会社の方とも連絡がとれません。それで過去の住人をあたっているんです。お姉さんに連絡を取るためにも、ご家族のあなたから連絡先を教えてもらえないかと、」

『できません』

 言葉を被せてきっぱりと断ってきたあとに『……会えんがよ、もう』と弱々しく響く方言が聞こえた。
 俺はその言葉の意味を感じ取って息を呑み、優雨に向けた無言の視線が絡み合う。香さんは口調を強めて言った。

『申し訳ないけど、見ず知らずの人に姉の連絡先を教えることはできません。失礼します』

「待ってください。お姉さんは今も神奈川県に在住でしょうか」

『教えられません』

「もう会えない、とはどういう意味ですか?」

『――、失礼します』

 電話は切れてしまった。優雨はもう一度掛け直すが、相手は出ない。

「流石にしつこいと面倒なことになるか……」

 優雨は渋面になってスマホを持つ腕を下ろした。俺は重い口を開く。

「お姉さん、亡くなってる感じがしたよな」

「ああ」

「やっぱり女の幽霊の正体はお姉さんってことに……」

 最後まで言葉にできず口を閉じた。妙に胸がざわついている。

「中山香さんは何かを知っていて、隠している可能性がありそうだな」

「……呪いを解く鍵を握っているってことか?」

 頷いた優雨は思案顔になると、少し黙ってから口を開く。

「仕方ない。こうなったら直接会いに高知まで行くしかねぇか」

「えっ、マジで?」

 驚く俺から視線を逸らした優雨はスマホを弄りながら言った。

「ブログに教室の住所も書いてあるしな。東京からわざわざ会いに行けば、相手にも深刻さが伝わるだろ」

「まぁ何か話してくれる可能性は高まるだろうけど……。行くなら日帰りか?」

「飛行機で午前着に移動できるとしても、そこから先は予定がはっきりしねぇからな。帰りのチケットは最終便で取っておいて、変更可能なら早めに戻ってくればいい。明日か明後日で取れるといいが……」

 そう言いながら優雨はずっとスマホを操作している。俺はちょっと嫌な予感がして訊いた。

「飛行機のチケット取ってるのか?」

「ああ。お前は気にしなくていいぞ。俺一人で行ってくるから」

 俺は「はあ?」っと思いっきり顔をしかめた。やっぱりかコイツ。俺は不機嫌になりながら距離を詰めて言った。

「なんで俺を置いていくんだよ」

「日帰り予定だとしても飛行機での移動だぞ。現地で体調が悪化したらどうすんだよ。話を聞きに行くだけなら俺一人で十分だ」

「ここまで二人でやってきたんだからそんなの今更だろ。俺も一緒に行く」

「あのなぁ」

「学校を休む必要もねぇぞ。土曜か日曜に行こう。俺と二人で行くなら優雨も親から許可を得やすくなるだろ?」

 優雨は顔をしかめて俺を見た。俺はニコニコ笑う。

「高一の時にさ、俺が大阪のUSJに行きたいって突然お前をさそった時もあっさりOKでたじゃん。俺の親もだけど、優雨が一緒ならまぁいいかって雰囲気に何故かなるんだよな」

「ハァ……わかったよ」

 諦めたように優雨は言った。俺は内心ホッとして肩の力を抜く。優雨の気遣いは嬉しい。けど、関係ない優雨を巻き込んでしまったのは俺だから、大変な役目を優雨一人に負わせたくなかった。

 わざわざ足を運んで妹さんと話ができたとしても、それで呪いを解く鍵を得られる保証はない。それでも、立ち止まったら終わりだ。少しでも可能性があるなら行動するしかない。

「優雨」

「なんだよ」

 優雨はスマホに視線を落としたままだ。
 俺は淋しいような気持ちになって、自嘲の笑みをこぼす。

「ごめんな」

「また謝るのかよ。らしくねぇぞお前」

 優雨は視線を上げずに呆れたように言った。俺は黙り込む。本当は「ありがとう」と伝えたい。でもどうしても感謝の言葉が言えないんだ。

 申し訳ない気持ちだけが、どんどん膨らんでいく……。