孕みの濁-ハラミノダク-


    ◆

 五月十七日、土曜日。

 俺は母親に付き添われて、午前中から土曜日でも診察可能な病院に来ていた。言われるがままいろいろ検査を受けて、午後に結果の説明を受ける。
 検査結果は異常なし。
 母さんは息子が病気じゃなかったことに安堵していたけど、俺はというと、やっぱりか……と落胆の方が大きかった。受験のストレスやメンタルの不調だろう、という医師からの説明をぼんやりと聞きながら、いよいよ除霊の出番だなぁと憂鬱な気分だった。


    ◆

 病院を出たあと『検査結果異常なしだった』とLINEで優雨に報告を送った。
 帰宅して自室に入った俺はベッドに仰向けになると、天井を見つめながら優雨に電話をする。スマホから聞こえてきた『とりあえず病気じゃなくてよかったな』という第一声に苦笑いした。

「おう。けど素直に喜べねぇのがツラい」

『で、どうすんだ』

 スマホの向こうで飴をガリガリ噛んでいる音が聞こえる。

「もちろん除霊しにいく。口コミで高評価の寺が都内にあるんだ。でも」

『でも?』

「除霊に関しては電話で相談して、向こうが必要だって判断したら予約できるみてぇなこと書いてあってさ。どうすっかなぁってさっきまで悩んでたところ」

『親には話してねぇのか?』

「おう。余計な心配かけたくねぇしな」

『ふうん』

「だからさ、明日その寺に行って、住職さんに直接会ってみようと思うんだよ。霊とか呪いとか目に見えないものが俺に悪さしてるなら、住職さんも俺を見て危険だってすぐ判断してくれるかもしれねぇだろ?」

『そうかよ』

「つーわけだからさ、優雨」

『俺も同行するぞ』

「え」

 一緒に来てくれね? とダメ元でお願いしようとしていたから、びっくりした。

「優雨、なんか悪いもんでも食った?」

『ざけんなボケ。真剣に取り合ってくれない薄情な野郎だと思われたくないだけだ』

 ガリッと思いっきり飴を噛んだ音が聞こえた。俺は嬉しくてにんまりと笑顔になる。

「さんきゅ。じゃあ明日の朝九時に小田急線の駅構内で待ち合わせしようぜ。寺の最寄りは吉祥寺駅な」

 通話を終えて、ふぅと一息ついた。除霊を受けられることになった時のことを考えてお金の準備をしておこうと体を起こしたその時、部屋のドアがいきなりガチャッと開く。

「兄貴」

「おわっ、びっくりした! ノックぐらいしろよ」

「さっきの話ぜんぶ聞いたから。優雨さんと一緒に明日お寺に行くんだよね」

「……盗み聞きかよ。よくないぜそういうの」

 真剣な顔をした妹を見て、困ったなぁと内心思う。

「除霊ってどういうこと? もしかして、あの空き家の出来事が原因なの?」

「あー、いや……」

「私は何も覚えてないし体に異常もないけど、兄貴の方は明らかに不調だよね。病院の検査は異常なかったってお母さんから聞いたけど、それって霊的な何かが兄貴を苦しめてるってことでしょ?」

 心はドアの前から離れてベッドに近づくと、俺を睨みつけるように見下ろしてきた。

「兄貴の体調不良は私のせいなんだし、私も一緒に行くよ」

「いいって別に……いや、待て。お前もしかして、優雨に会いたいだけなんじゃ」

「そんなわけないでしょ! 兄貴のことが心配だからついて行くんだよ!」

 心はぎくっとした後に声を大きくして怒った。やっぱ図星か。

「私も念の為にお坊さんに見てもらいたいし……だから一緒に行く!」

「わーったよ」

 心も一緒に行くことは優雨に黙っておこう。


    ◆

 五月十八日、日曜日。

 俺と心は一緒に家を出て、優雨と待ち合わせをしている小田急町田駅に向かった。
 待ち合わせ時間の午前九時ちょうどに到着して駅構内に続く階段を下りると、すでに優雨の姿があった。律儀な優雨は友人同士でも必ず十分前に着くことが当たり前の奴だ。

「え、心ちゃん?」

「おはようございます優雨さん」

 びっくりしている優雨に心が嬉しそうに近づいていくと、優雨は「おはよう」と心に笑顔を見せた。そのまま心の背後にいる俺を見てくるけど、俺に向ける笑顔は怖い。

「友咲、聞いてねぇぞ」

「あ〜悪りぃ。実は電話の内容を聞かれちまってさぁ」

「私がお兄ちゃんに無理言ったんです。勝手に来ちゃってごめんなさい……」

 心がわざとらしくしゅんとしたのを見て、優雨は眉尻を下げた笑みを浮かべる。

「いや、そういう理由ならいいんだ」

「ありがとうございます! あ、受験勉強お疲れ様です。これ良かったらどうぞ食べてください」

 心はチュッパチャプスが入ったビニール袋(コンビニに行って箱買いして来た)を、いそいそと優雨に差し出した。

「ありがとう。けど、こんなに貰っていいのか?」

「もちろんですだって優雨さんの為に箱ごと買い占めた――じゃなくてっ、自分で食べようと思って買ったんですけど食べきれないなぁって気づいちゃってだから余り物を押し付けるみたいで申し訳ないです」

「そんなことないよ。最近は一日に十本は消費するからかなり助かる」

「いや食いすぎだろ」

 どんだけストレス溜めてるんだ、と俺が思わずツッコミを入れると、誰のせいだ、と睨まれた。
 ちなみに優雨は俺以外の人間には優等生キャラという外行きの顔で接しているが、俺と同じくらい付き合いが長い妹の前では素を見せる。それでも俺を相手にする時より百倍くらい優しい態度だ。


 俺たちは吉祥寺駅を目指して電車に揺られた。日曜日の電車内は学生や家族連れが多く、あちこちから賑やかな会話が聞こえてくる。
 俺は隅っこの壁に寄りかかって目を閉じていた。体調は相変わらず優れず食欲もない。林田さんの死や呪いのことも気がかりで、心身が全く休まらない時間が続いていた。
 一方心は、久しぶりに会う優雨を目の前にしてここぞとばかりに話しかけていた。ふと俺は、心が優雨を好きになった理由を思い出す。
 心が小学四年生の時、変質者に襲われそうになったところを優雨が助けたのがきっかけだった。放課後に一人で帰っていた心に声をかけてきた中年の男は、いきなり心の腕を掴んで人気のない場所に連れて行こうとした。そこへ偶々通りかかった優雨が男を殴って気絶させて警察に通報した。姫を救う王子さながらに現れた優雨に心は一瞬で恋に落ち、今現在も片思い中だ。そんな心からの好意に優雨は気づいているけど、あえてスルーしている。

 そういえば俺も、ピンチの時に優雨に助けてもらったことがある。
 中学三年生の時、学校帰りに見知らぬ四人組の大学生に絡まれた。「金を出せ」と言われて無視をすると、向こうの一人にいきなり頬を殴られた。すると間髪入れずに俺を殴ってきた相手に優雨がキックを放ち、相手は吹き飛ばされて地面を転がった。優雨は指を鳴らしながら「先に手を出して来たのはそっちだから文句無しな」と言って残り三人もあっという間にボコボコにしてしまった。大学生たちは幽霊でも見たように青ざめた顔をして逃げていった。
 あの時の優雨は笑顔で人を殴っていて、守られた側の俺でも若干引いてしまったのを覚えている。味方だと心強いが絶対に敵に回したくないと強く思った。

 そんな過去を思い出しつつ、途中で乗り換えを入れながら吉祥寺駅に到着した。


    ◆

 駅構内を出てバス停まで移動し、乗車したバスに揺られてお寺に到着した。
 広い境内と竹藪が生い茂った緑豊かなお寺には観光客も多い。石段をのぼって山門を潜り、境内で一度立ち止まって辺りを見渡す。参拝者の中に住職さんの姿は見当たらない。

「まずは住職さんを見つけなきゃ話が始まんねぇよな」

「本堂か寺務所の近くにいるんじゃないか」

 前方に見えている本堂の方へ行ってみる。本堂の手前に大きな壺みたいなものがあった。そこから線香の煙がいくつも上がっていて、壺を囲んだ参拝者がその煙を浴びるように手で仰いでいる。それを見た心が言った。

「あれって何してるのかな」

「常香炉だな。あそこから上がる煙には魔よけの効果があるんだよ」

「さすが優雨さん物知りですね」

 心はこっちが恥ずかしくなるくらい優雨にデレデレしている。優雨はいつも通り落ち着き払った態度のまま俺を見て言った。

「体の悪い部分に浴びると効果が得られるらしいぞ」

「マジか。浴びよ」

「私も私も」

 他の参拝者が離れた常香炉に心と一緒に近づいた。俺は腹部に向かって煙を手で仰ぎ、心も目を閉じて両手を使って仰ぐ。優しいお香の香りに少しリラックスできた。

「友咲、見ろ」

 俺の背後から近づいた優雨が肩に手を置いて呼びかけてくる。
 俺は「なにを?」と肩越しに振り向いて優雨を見た。優雨は本堂の方を見ている。優雨が見ている先に視線を向けると、住職の格好をした五十代くらいの男性がこっちに向かって歩いてくる姿があった。
 男性は険しい顔つきをして俺のことを見ている。俺は無言で優雨を見た。優雨は眉根を寄せて俺を見る。心は不思議そうに男性を見ていた。

「こんにちは」

 俺たちの目の前で立ち止まった男性は穏やかな笑みを浮かべて挨拶した。俺たちも口々に「こんにちは」と返し、俺は続けて訊いた。

「ここの住職さんですか?」

「ええ、そうです。私は相模(さがみ)と申します」

「俺は小瀬川友咲っていいます」

「妹の心です」

「水原優雨です」

 相模住職はどこかシビアな顔つきで俺のことをじっと見つめる。

「友咲君。急にこんなことを言うのは申し訳ないが、君からとても悪い気を感じるんですよ。どこかで呪いを受けた可能性がある。心当たりはありませんか?」

 目を見開いた俺は背筋に寒々しいものを感じて押し黙る。すると横から優雨の肘が俺の腕を突いてきた。慌てて口を開く。

「えぇと、実は俺、除霊をしてもらいたくてこの寺に来たんです」

「そうでしたか」

 相模住職は頷くと「場所を変えて話を聞きましょう」と言って、俺たちを寺務所の方へ案内した。


    ◆

 俺たちは寺務所の中の休憩室に通された。中央に置かれたテーブルに相模住職と向かい合う。俺の両隣に心と優雨が座り、座布団の上で正座をした。

「では、事情を話してください」

「はい」

 俺は自身の身に降りかかった恐怖体験を全て話した。加えて林田さんの死に方についても話そうとしたが、この場にいる心の耳にはあまり入れたくないと思ったため話さないことを選択した。

「妹もその空き家に入っているんですけど、妹の方は特に何も異常はないみたいで……」

「私はどこも体調は悪くないし、変な夢とか、幽霊も見てません」

 不安な顔をして心は言った。

「妹さんの方は何も問題はないので、安心してください」

 相模住職からそう言われて、心だけでなく俺と優雨も揃って安堵する。相模住職は俺を見て続けた。

「しかし友咲君。君の方は除霊が必要です。なるべく早く対処した方が良いでしょう」

 やっぱりか。両隣にいる二人が心配そうに見つめてくる。俺は相模住職に助けを求める思いを込めて言った。

「あの、ここで除霊をお願いできませんか? あっ、もちろんお金の準備もしてきてます」

「お兄ちゃんを助けてください。お願いします」

 心も必死になってくれている。

「私に任せてください。あと、お礼は不要ですよ。お気持ちだけ頂戴いたします」

 相模住職は穏やかな笑みを浮かべた。


    ◆

 除霊の場は危険が伴うため優雨と心には外で待っていてもらい、俺は相模住職と一緒に別の和室へと移動した。
 除霊専用に使われているという和室は、薄暗い照明に照らされた空間だった。仏像や仏具が置かれた祭壇の前に相模住職が座り、俺は部屋の中央に正座して相模住職と向き合った。線香の香りで満ちた部屋には他に誰もいない。
 相模住職はビニール袋がかけられたゴミ箱を俺の前に置いて言った。

「君を苦しめている呪いの力はお腹の中にあります。それを体内から吐き出す必要があるので、吐きたくなったら我慢せず吐いてください」

 俺は不安を抱えながら頷いた。

「両手を合わせて目を閉じ、何も考えず、体の力を抜いてください。では始めましょう」

 相模住職は俺に背を向けると、数珠を手にして準備を整え始めた。俺は言われた通り手を合わせて目を閉じる。
 厳かな雰囲気の中、相模住職はお経を唱え始めた。腹の底から響く読経を耳にしていると、急に胃の不快感に襲われた。額に嫌な汗が滲む。

「っ、」

 吐き気がする。俺の体内で〝何か〟が暴れている。
 ぐるぐるぐるぐる――暴れ回って膨張している。

「うッ、ぐ」

 腹の底から襲ってくる吐き気を我慢できなくなった。目を開けると視界が涙で滲んでいた。両手に持ったゴミ箱に顔を突っ込み、喉に込み上げてきたものを吐き出す。
 昨夜も今朝も固形物は口にしていない。それなのに口から大量に吐き出される嘔吐物。読経に混じり、おえっ、げほっ、と自身の苦しげな声が響く。

 吐き気の波は引かない。
 何度も何度も吐いた。
 涙で濡れたまぶたを開く。
 視界に映るのはゴミ箱の中身。
 なぜか真っ黒だった。
 吐き出した嘔吐物は、まるで墨汁をぶちまけたかのような真っ黒な色をしていた。でも口の中は何の味もせず、臭いもない。
 何が起こっているのか分からず、頭が混乱する。呼吸が苦しい。
 その時、耳元で人の息遣いが聞こえてきた。
 すぐ背後に誰かいる。そいつは背中にべったりとくっつき、俺に何か囁いていた。


 はらみ はらむ
 はらみの……


 囁かれる、理解できない言葉。
 だんだんと意識が混濁して、
 視界が暗くなる――



 ……どれくらい時間が経過しただろう。
 読経はずっと続いていた。背後の気配がいつのまにか消えている。吐き気もおさまり、胃の不快感もない。頭の中もスッキリして、体の調子が良くなっていることに気づいた。

「気分はいかがですか?」

 読経が止み、俺の方へ体の向きを変えた相模住職が問いかけてきた。俺はゴミ箱を抱えたままゆるりと顔を上げる。相模住職は変わらず穏やかな笑みを浮かべていたが、その額には汗が滲んでいた。

「なんか、すごく、気分がすっきりしました」

 俺は力無い声で言った。「それは良かった」と相模住職は安心する。

 除霊は成功した。
 ようやく、心から安堵することができた。



 俺は相模住職に感謝を伝えて、外で待っていてくれた優雨と心の元へいく。元気になった俺から除霊が成功したことを聞いた心は喜び、優雨は安堵の笑みを浮かべた。


    ◆

 ようやく平穏な日常を取り戻した俺を待っていたのは、数日間手につかなかった勉強の遅れを取り戻すための、優雨によるスパルタ指導だった。
 学校の休み時間はもちろん、家に帰ってから寝る時間まで優雨がずっとそばについて勉強をする。休憩中にスマホを触ることも許されないくらい勉強の鬼と化した優雨は、喧嘩の時に見せる顔とはまた違った怖さがあった。家族に助けを求めようにも、心は家に優雨がいることを喜んでいるし、両親も優雨に感謝していて早々に諦めるしかなかった。


    ◆

 月曜日からそんな状況であっという間に時間が過ぎ、五月二十一日の水曜日。
 この日も俺の部屋で優雨と夜遅くまで勉強をした。優雨が帰っていったあと、二十三時三十分を過ぎてベッドに入ると、勉強のし過ぎで疲れた俺の脳は目を閉じればすんなりと眠りの世界へと落ちていく。


 ぉぎゃァ……


 ふと、どこからか赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。


 ぉぎゃァ

 ぉぎゃァ


 この泣き声はいったい何なんだろう。
 お前はだれだ?
 どこで、泣いているんだ?


 ぉぎゃァ


 俺のお腹の中で、泣いている?


「ハラミマシタ」


 赤ん坊の泣き声に混じって、あの女の声がした。
 すぐ近くに気配がする。
 俺は仰向けの状態で目を閉じている。そんな俺を、ベッド脇からぬうっと覗き込んでいる気配……

 ハッとして目を覚ました。
 はぁ、はぁ、と吐き出される呼吸に合わせて胸が大きく上下する。額と背中にはじっとりと嫌な汗をかいていた。

「なんなんだよもう……」

 薄暗い天井を見つめながら前髪をくしゃりと握りしめて上半身を起こすと、勉強机の上でぼんやりと光っている物に視線が引き寄せられる。そこにある小さな置き時計は、日付けが変わった二十二日の木曜日、夜中の二時過ぎを表示していた。

「夢……」

 夢だと、そう思うようにした。
 無理矢理気持ちを安心させて、再びベッドに体を沈める。仰向けの状態で目を閉じて、少ししてから寝返りをうって横を向き、ふっと目を開けた。


 青白い顔をした女がいた。


 ベッド脇の床に正座した女が、真顔で、俺のことをじぃっと見つめている。
 窓の外に浮かんでいた女と同一人物だ。今回は顔だけじゃなく、体まではっきりと見える。濃紺無地の着物姿だ。

「っ……!」

 俺は血の気が引いた。あまりの恐ろしさに悲鳴も出なかった。視線をそらすこともできず、至近距離から女と見つめ合う。やがて女は、目元と口元に笑いジワをくっきりと浮き上がらせて、にやりと嗤い――


「ハラミマシタ」


 そう言って、消えてしまった。



 そのあとは眠気も吹っ飛んでしまった。
 朝まで気を紛らわそうと布団の中で丸くなってユーチューブを観ていると、そこでふと思い出す。林田さんが言っていた、2012年にアップされてたった二ヶ月で削除されたという動画。
 ずっと気にはなっていた。林田さんはどこかにアップされていないか探して見つからなかったと言っていたけど、俺も探してみようか。

 そこから思いつく限り検索をかけまくって動画を探した。でも結局見つからず、気がついたら窓の外が明るくなっていた。

「ゔぁ〜、だる……」

 力尽きた俺はスマホを枕元に置いて毛布に包まる。体調不良がぶり返していた。また腹の痛みに吐き気もする。昨日まであった食欲もすっかり消え失せていた。
 そのまましばらくじっとして、六時になってようやくのろのろと動き出した俺は、スマホを手にして電話をかける。
 数コール後、優雨が出た。

「おはよう、優雨」

『朝っぱらから何の用だよ。珍しく早起き……』

 優雨はめんどくさそうに言ってから急に黙り込んだ。何か察したのだろう。俺はわざと明るい口調で言った。

「いや〜参ったわ。除霊も効果がないとなると、マジ詰んだんじゃねぇかなこれ」

『……うそだろ』

 優雨の呆然とした声が響く。

『何があった?』

 俺は数時間前の体験を話し、そして朝までずっと考えていたことを口にする。

「このままだと俺も、林田さんのように死ぬかもしれない」

『バカなこと言うんじゃねぇよ』

 スマホの向こうで優雨は憤慨している。

「優雨。俺、今日学校休んで、あの空き家にもう一度行ってみるわ」

『何しに行くんだよ』

「呪いを解く方法を探しにいく。その為にも必要なのは空き家に関する情報だ。近隣住民に聞き込みすれば、もしかしたら呪いを解くための重要な手がかりを得られるかもしれねぇだろ。空き家の中も調べられるといいけど」

『待て友咲。一人は危険だ。行くなら俺も同行する』

「何言ってんだよ。生徒会長がズル休みはまずいって。……いや、つーか、これ以上この件に優雨を巻き込むのは止めにしようと思うんだ」

 最悪、優雨まで呪われてしまう恐れがある。それだけは絶対に避けたかった。

『いや駄目だ。俺も学校を休む。一日くらいなら問題ねぇよ』

「優雨……」

『電話してきてる時点で、お前は俺を頼っている証拠だろ』

 図星を突かれて苦笑する。それと同時にジーンときた。ここにきて優雨の優しさが身に染みた俺はぐすんと鼻を鳴らした。

「マジ愛してる優雨。このご恩は一生忘れねぇよ」

『おい誰が無償で付き合うかよ。次はケーキの食べ放題でも奢ってもらおうか』

 やっぱり優雨は優雨だった。
 それでも、その存在に俺はいつも救われている。