前世あやかし狐だった私は、恋人だった晴明様を思い出せない

「すみません。今、部屋を空けます。彼は、私達と一緒にサークル活動をする事になった野上大介君です」

 こちらを見た上川先輩は、意外そうな顔をして彼を見ていた。

「そうなんだ。よろしくね野上君。良ければ今度、オカ研にも見学に来るといいよ」

「ありがとうございます」

 上川先輩は、奥にあるキャビネットへと歩いていき、ノートをしまいながら棚を整頓していた。

「桜田さん、今日は人数が集まらなくて解散したんだ。ここへは、日誌を返しに寄っただけだから、まだ使ってて大丈夫。邪魔して悪かったね」

「ありがとうございます。でも、私達もそろそろ失礼します」

 私が筆記用具をしまっているうちに、先輩は颯爽と部屋から出ていった。相変わらず、無駄の無い動きをする先輩だな。などと思っていると、野上君が急に叫んだ。

「桜田、来るぞ!」

 そう言った瞬間、廊下側にあるドアと壁が揺れ始めた。

「なっ、何?」

 地震かと思って床に伏せてみれば、床は揺れていなかった。野上君といえば、ドアを見つめていたかと思えば、ポケットから長方形の細長い用紙を取り出して、空中に五芒星(ごぼうせい)を描いていた。

「?!」

 その用紙はドアのある方向へ投げつけられた。ドアにぶつかった途端、粉々になって床に落ちた。それと同時に壁の揺れも収まり、ホッとしていると、ドアが再び揺れ動いた。驚いた私は思わず身を屈めてしまったが、揺れたドアが開くと、そこには玲奈が立っていた。

「ちょっとぉ、廊下を歩いてたら本当に先生に書類の整理を頼まれたんだけど~あれ結愛? 床にへばりついてどうしたの?」

 玲奈が帰ってきて安心した私は、床にへたりこんだ。あきらかに青ざめていた私を、心配そうに覗き込んだ玲奈は、その場にいた野上君を睨んでいた。

「お、俺は別に……」

「玲奈、違うの。ちょっと目眩(めまい)がしちゃって」

「えー貧血? 大丈夫?」

 帰る途中、野上君と目が合ったが、口に人差し指を当てていた。どうやら、さっきの件は秘密らしい。秘密も何も、玲奈に話したって信じてもらえないと思うんだけど。