前世あやかし狐だった私は、恋人だった晴明様を思い出せない

 私達が田辺家へ到着すると、誰もいなかった。正確には、誰もいないように見えた。

「……」

 家の引き戸が少し開いていることに気がついたが、中へ入るにしても勇気がいる――そう思っていると、野上君が前へ出てきて戸を開けた。

「こんにちはー」

「はーい。あら、あなた達は……」

 すると、奥から田辺さんのおばあさんが出てきた。

(おばあさんがいるとは、どういう事だろうか? 警察が来ていないのだろうか?)

 嫌な予感がして、心臓の鼓動が早鐘を打つように早くなっていった。

「あの、門田さんは……」

 おばあさんの笑顔に影が走り、素早い動きで隠していた包丁を取り出すと、私達めがけて突進してきた。

「うおぉ!」

 おばあさんとは思えない動きに驚いていると、野上君が更に一歩前へ出て、いつの間に準備していたのか『細長い紙』を、おばあさんへ向けて投げつけた。すると、投げた紙はおばあさんの額へ貼りつき、おばあさんは倒れて動かなくなってしまった。

「大丈夫。気を失っているだけだ」

 そのまま土足で家の中へ上がりこむと、部屋の中を見回した。縁側へ続く掃き出し窓から物置が見える。

「門田さん?!」

 勢いよく物置を開けたが、そこには誰もいなかった。

「何で?」

「あいつが、連れて行ったのかも」

「あいつって、上川先輩?」

「ああ。前に言った通り、悪霊になりかけている狐の妖は二匹いる」

 そう言った野上君は、懐から紙のようなものを取り出した。

「……」

 紙を空中へ投げると、投げた紙は意識を持ったかのように、どこか遠くの空へ飛んで行ったのだった。