前世あやかし狐だった私は、恋人だった晴明様を思い出せない

 連絡を受けた先生が目を白黒させながらドアを開けてくれたのは、それから20分後のことだった。

「ドアを塞がれたのは、どうしてなのか分からない」

 先生には、かなり曖昧な報告をして解散となった。心配されたが、先生は私達が閉じ込められたことに対して、たいして疑問に思わなかったようだ。

「玲奈、ごめん。先に帰ってて」

「結愛?」

「まだ、やることがあるの。警察へは、私が連絡しておくね」

 解散になったが、私は野上君を引きとめた。もちろん、さっきの話を聞くためである。

「野上君、ちょっといい?」

「ああ、もちろん」

 私と野上君は少し歩いて、校舎とは反対側にある、中庭のベンチに腰掛けた──初夏の風が、木々をざわつかせていた。

「大丈夫?」

「平気」

 時間が経つにつれ、あれが本当に起こったことなのだと実感が湧いて来たのか、私は冷や汗をかいていた。野上君の反応を見るに、私の顔色は相当悪いに違いなかった。

「野上君は、平気なの?」

「ああ。平安時代は、こういう事件がしょっちゅうだったからな」

 野上君は、足を組んでベンチへ寄りかかると中庭のずっと先を見つめていた。

「こんなことが、しょっちゅう起きたら大変ね。それより、門田さんが見つかったって本当?」

「ああ。(しき)に言って、連絡を取ってもらった」

「えっと、ごめん。シキって何?」

 私が聞くと、野上君は少し考えてから答えた。

「えーと、式にも色々あるんだけど、簡単に言うと(あやかし)みたいなものかな。俺が命令すると、動いてくれる(あやかし)

(あやかし)……」

「喫茶レーベルにいた座敷わらしに、門田さんのいる場所を探ってもらってたんだ。何でも喫茶店から3km以内だったら、移動可能らしいよ」

「喫茶店に座敷わらしなんて、いたの?」

「なんだ、気がつかなかったのか? まあ、普通の客と変わらないし、イメージとちょっと違うかもな。ほら、この間行った時にカウンターで新聞広げてた、じいちゃんだよ」

 私は記憶を辿りながら、それがアイスコーヒーの飲み方を教えてくれたおじいさんだということに気がついた。

「ええ?! 普通の人間にしか見えなかったけど、本当に座敷わらし?」

「嘘ついてどうすんの。じいちゃんの話だと、座敷わらし期間長くて神格化してるらしいよ。だから、普通の人間に姿を見せることが、最近になって可能になったんだって。俺もこの間はじめて聞いて、びっくりしたよ」

 野上君は、最近の事情に疎くて気まずそうだった。

(最近の(あやかし)事情なんて、誰も知らないからね?!)

「それで? 門田さんはどこにいたの?」

「それが、田辺さん家の物置で監禁されてるらしいんだ」

「えっ?!」

 私が驚くと、野上君は困ったような顔をしていた。もしかして、門田さんを監禁している犯人は──そこまで考えて(かぶり)を振った。まさか、そんなことがあるはずがない。

 私は青木刑事へ連絡した。分かりやすく、(あやかし)の話は抜きにしてである。

 門田さんが田辺さん宅に監禁されてる可能性があること、上川先輩が犯人の可能性が高いと思われる理由を簡潔に説明した。

「上川健? いや、確かアリバイがあったはずだが……。監禁の犯人か?」

 青木刑事が、意味が分からないと言っていたので、私は上川先輩が犯人ではないかという話を大学でしていたら、部屋に閉じ込められたという話をした。

「よく分からないが、監禁の可能性があるんだろう? ひとまず田辺家へ向かってみるよ」

 青木刑事は田辺家へすぐに向かうと言っていた。けれど、何だか胸騒ぎがして――私も野上君と一緒に、田辺家へ向かうことにしたのだった。