ゆめこちゃんと遊んだ日

タイトル:
『ゆめこちゃんと遊んだ日③』

投稿者:
みこと

投稿日:
2026/01/24

 前回記事投稿から少し時間があいてしまってすみません。
 それから、いろいろな方からの情報提供ありがとうございました。どうやら、私が知らなかっただけで、他にもゆめこちゃんについて語っていた方がいたようですね。
 特に花音さんという方の『ゆめこちゃんって女の子がいたんだけど』記事、それからカマキリさんという方の『ゆめこちゃんって女の子の夢を見た』の二つの記事はとても参考になりました。
 おかげで、ほとんどの謎が解けたように思います。他にもネット記事とか、オカルトに詳しい人に訊いてみたりとかいろいろしていました。その中には、この件は絶対やばいから関わるなと言ってきた人もいました。
 でも、私は行かなければいけないんです。もう一度あの村に――加美町村に。

 リンク貼ったので既に花音さんとカマキリさんが書いた記事をご覧になった方もいると思います。
 そうです、私の苗字は、臣島。かつて、加美町を支配する神官の一族でした。いろいろあって既に神社はなく、お祖父ちゃんも神主ではありません。でも、かつての儀式の名残を残す場所はまだ残っていました。
 それが、一時民宿を経営していたという、お祖父ちゃんの家。
 四階の一部屋を清めて、特別な場所として使っていたんです。そこはかつて〝菖蒲の間〟と呼ばれた部屋でした。そこをお清めの部屋ということにして、儀式で作られた〝かみたもつの子〟が入った箱を安置、封印していたのです。
 そう、私が――私がお正月に、お話をしていた部屋。
 あの部屋に、案の定生きた人間はいません。いるはずもありませんでした。あるのは、可哀想な女の子・夢子ちゃんが入れられてしまった箱だけだったのです。
 可哀想な夢子ちゃん。両手両足を切り落とされて、幼い弟・妹たちの手足を縫い付けられて。それは、筆舌に尽くしがたい苦しみであったことでしょう。それでも彼女は必死で、村の安寧を守ろうと努力したのです。
 結果的に、村は米軍の脅威に晒されることも、空襲に遭うこともありませんでした。それが夢子ちゃんが守ってくれた結果なのか、たまたまこんな田舎の村なんぞ誰の目にも止まらなかったのかは定かではありません。
 肝心なのは、夢子ちゃんのご両親が、とうにこの世にはいないこと。彼女は苦痛の中で必死で神としての役目を果たそうとしたに違いありません。ですが私が調べたところ、印ヶ崎のご両親は夢子ちゃんの儀式を見たことで発狂し、二人揃って崖から身を投げてしまったのです。

 本来、印ヶ崎の家は、子供を六人以上作るようにと言われていました。何故なら、上の五人が生贄で死んでしまったら、後を継ぐ者がいなくなってしまうからです。実際調べてもらった家系図を見たところ、夢子ちゃんのお母さんは六人兄弟の末子。
 カマキリさんの記事では『長いこと儀式が行われていなかった』とありましたが、正確には違うのです。夢子ちゃんのお母さんの代で行われた儀式は失敗してしまって、効力を発揮できなかったらしいのです。
 あの儀式は、器となる長子に弟妹たちの両手足を繋ぎ合わせ、箱に入れて封印する――少なくともその時まで、全員が生きていなければ成立しません。その痛みと苦しみが、神降ろしを成功させるからです。でも夢子ちゃんのお母さんのお姉さんたちは途中で死んでしまって、結果かみたもつの任を果たせず、儀式が成功したカウントに入らなかったのではないかと言われています。
 何が言いたいかというとつまり、夢子ちゃんとそのご両親が、最後の印ヶ崎家の血筋だったのです。なんせ、夢子ちゃんのお母さんのお母さんとお父さん――夢子ちゃんにとってのお祖父ちゃんお祖母ちゃんもまた、儀式のショックで発狂して亡くなってしまっているから。
 印ヶ崎家が途絶えてしまい、しかも誰も土地を引き継ぐ人がいなかったのはそのためなのです。夢子ちゃんのお父さんも天涯孤独の身だったと聞いています。

 この一週間ほどの間に、お父さんからも話を聞きました。お父さんはお祖父ちゃんほど詳しくないにせよ、家の中に禁域があって不思議に思っていたと言います。

『父さんもそんなに詳しくないし、わからないことだらけだけど、親父に訊いたことはあるんだ。あれらはどういう意味なのかって。……そもそも、お祖父ちゃんのあの家、昔は旅館だったのに今は旅館じゃなくなったのは、怪異が頻発したかららしい』
『おばけが出たってこと?』
『どういう理屈かわからないが、霊的な力を集めやすかったんだろうな。菖蒲の間に置かれた封印の棺の影響もあったんだろう。何が憑いてるのか、どういう怪異なのかもわからないが、踏み込まなければ害はないってことでお清めをしてそのままにしたようだ。親父の親父……みことのひいお祖父ちゃんは神主で、儀式に直接関わっていた。お祖父ちゃんは神主ではなかったけれど、そういう力は一定持っていたらしい。だから、まあ怪異を祓えずとも封印はできたってわけだな』

 あの家を伯父さんが継ぐことになったのは、あの家にあるものを放置するわけにはいかなかったから。
 伯父さんは、兄弟の中で一番霊感が強くて適任でもあったらしいです。

『四階の菖蒲の間には、お父さんも近づいたことがない。そもそも四階には入るなと言われてたから』

 ただ、とお父さんは言います。

『そこには封印の箱があって、神様になった女の子が祀られているとは聞いていた。普段は眠っていて、時々目を覚ましてしまうのだと。目を覚ましてしまったら楽しませて、喜ばせて、満足させてもう一度眠って貰うのが一番安全なんだってな。みことがおしゃべりの相手で呼ばれたのは、そのゆめこちゃんという女の子が目を覚ましてしまったからだろう』

 神保は普段は眠っている。起きた時は封印が解けて外に出やすくなっているから、出て来る気がなくなるようにおしゃべりで楽しませなければいけない。
 多分ですが――花音さんの妹さんが夢子ちゃんの幻を見たこと、カマキリさんが悪夢を見たことで、村の人たちは神保が起きてしまったことに気付いたのでしょう。それでとりあえず眠って貰うまでの時間稼ぎをしようとしたのだと思います。
 私は三日お喋りをしただけですが、多分今は、別の人がお喋り役と宥め役を買っているのでしょう。

 印ヶ崎家がなくなってしまった以上、もう儀式を行うことはできません。災厄が起きても、村を守る方法はどこにもないのです。
 そして、この手の儀式は、失敗した時より大きな災いが起きると相場が決まっています。夢子さんのお母さんの代で失敗した時、本当に何もなかったのでしょうか?きっと、そうではなかったはずです。
 さらに、今でもなおお祖父ちゃんの家にいる夢子ちゃん。
 次の儀式ができない以上、彼女にはなにがなんでもあそこにいて、守り神になっていてもらわなければいけないのでしょう。同時に、暴走しないように機嫌を取らなければいけないのでしょう。

『みこと!なんちゅうやっかいなことしてくれた……!餅だかえならなんとかなるだろうが、よりにもよって父親と母親を探せだなんて……!このアホが!』

 お祖父ちゃんが何故、あんなにも焦っていたのか今なら想像もつこうというものです。
 みことちゃんがもし、お父さんとお母さんがもういないことを知ってしまったら。自分がかみたもつになったのに一番大事な人達を守れなかったと知ったらどうなるか。自暴自棄になって暴れたり、自分をこんな目に遭わせた村人を恨むようにでもなったなら――。そうでなくても、もう既に起きた夢子ちゃんは箱の外に出てしまっているはず。せめて、部屋から出てこないように、部屋の外に興味を持たないようにしなければなりません。

 なんて可哀想なんでしょう。

 私の夢にも、何度も夢子ちゃんが出てきました。出してほしい、お父さんとお母さんに逢わせてほしいと泣いています。その願いをどうして無視できるでしょうか。
 私は今から、加美町村へ行きます。
 そして、今度はおしゃべりだけじゃなくて、夢子ちゃんとちゃんと遊ぼうと思います。あのドアを開けて、その手を引いて。

 ええ、きっとそれがいいちばんいい。
 そのあとがどうなっても、夢子ちゃんにはもう関係ないんですから。