ゆめこちゃんと遊んだ日

タイトル:
『ゆめこちゃんと遊んだ日②』

投稿者:
みこと

投稿日:
2026/01/18

 すみません、長くなってしまったので切りました。
 昨日の投稿の続きです。

 小さな村で、一番大きなお屋敷で、まあ古い武家屋敷っぽい家だし何かいてもおかしくはないのですが。
 ゆめこちゃん、といういかにも日本人の女の子っぽい名前がかえって不気味でした。とはいえ、お祖父ちゃんのこの様子だと逆らったら怖いし、本当に普通の女の子かもしれないという一縷の望みをかけて私はドアに向かって呼びかけてみました。

「こ、こんにちは。そこに、誰かいますか?私は、ゆめこちゃんとお話するために来た、みことと言います」

 結構分厚い木製のドアだし、向こうに聞こえていなかったらどうしようかと思いました。
 すると、ドアの向こうでごそごそと何かが動く気配がします。やがて向こうから、声が聞こえてきました。

「……みことちゃんっていうの?こんにちは」

 それは、小さな女の子の声。鈴が鳴るように可愛らしい声でした。年は年長さんから小学校低学年くらい、のように思えます。

「こんにちは。えっと、あなたとお話してほしいって、お祖父ちゃんに頼まれたんだ。あなたがしたい話とか、聞きたいお話はある?」
「んー……まってね。ゆめこね、まだおきたばっかりなの。おねむだから、あんまりいろいろかんがえられなくって」
「そうなんだ」
「でもね、たいくつだから、おしゃべりはしたいな。おきてるときは、できればたくさん、いろんな人とおしゃべりしたいの。つまんないの、ゆめこきらいだから」
「そっか。じゃあ……まず、ゆめこちゃんがどういう子なのか、教えてもらってもいい?」

 彼女が何を好み、何に興味を持つのか。それを知らないと、話題の展開は難しいと考えました。
 それに、なんとなく私のプライベートなことは話さない方がいいと感じたのです。普通の子供相手だったならともかく、相手は注連縄のかかったドアの向こうにいる得体の知れない存在です。名前は教えてしまったけれど、年齢とかは教えない方がいい、なんとなくそう思いました。前に、本でそういうのを読んだことがあったからです。

「んっとね、ゆめこね、ななさいなの!」

 彼女は嬉しそうに教えてくれました。

「七つでね、いちばんおねえさん!下にね、四人のおとうとといもうとがいるの」
「そうなんだ。なかよしなの?」
「うん。ママとパパね、かんぬしさんのおうちなんだけどね、むかしからきょうだいで仲良しじゃないとダメ!ってすっごくいわれたの。そうじゃないと、いいかみたもつになれないからって!」
「……かみたもつ?」

 何やら聞き覚えのない単語が出てきました。私が訊き返すと、彼女は「かみたもつは、かみたもつだよ」と言います。

「ゆめこたちはね、みんなかみたもつなの。生まれるまえからきまってたんだって。村がたいへんなことになったら、みんなで力をあわせてわるいやつらをやっつけるの。だからゆめこたち、みんなでいっしょになって、がんばったんだよ」

 彼女はとても誇らしげに、えっへん!と言います。きっと、ドアの向こうで胸を貼っているのでしょう。
 兄弟姉妹仲良くしなさい、というのもみんなで力を合わせて頑張りなさいというのもわかります。しかし、兄弟で悪い奴らをやっつけろとはどういうことでしょう?長女であるゆめこちゃんでさえ、七歳だと言います。つまり双子などがいたとて、下の子たちはもっと幼いはずなのです。赤ん坊もいるかもしれません。とても、何かに立ち向かえるような年齢ではないような気がしたのですが。

「そうなんだ、すごいねぇ」

 機嫌を損ねるな、と言われているのでとりあえず褒めるだけ褒めておこうと思います。
 ただここで、私は余計な好奇心を出してしまいました。それは。

「悪い奴らと戦って、やっつけたんだ?すごいねえ。一体、どういう奴と戦ったの?」
「わかんない!」
「え、わかんないの?」
「うん。あのね、この国にたくさん鬼がいっぱい来て、村にも鬼がくるかもしれないからあぶないっておとうさんとおかあさんが言ったの。だから、その鬼がきたら、かみたもつのちからでやっつけなさいって。だから、とってもこわかったけど、いたかったけど、がんばった!……ねえ、いま、村はへいわ?おおとうさんとおかあさん、げんき?」
「え、えっと……」

 一体何の話をしているのか、さっぱりわからない。そもそも、私はこの女の子の名前をゆめこちゃん、としか知らないのだ。苗字もわからないのに、彼女のお父さんとお母さんがどこにいるのかなんて知るはずもない。
 なので、正直に答えることにする。

「村は、とっても平和だよ。鬼はどこにもいないから」

 彼女の言う鬼が妖怪のようなもの、あるいは悪人のようなものだと想定してそう答える。

「でも、ゆめこちゃんのお父さんとお母さんがどこにいるのかは、知らないんだ。私ね、普段は東京に住んでるの。ここはお祖父ちゃんの家で、お正月だからお祖父ちゃんのところに遊びに来てるの。だから、いつもこの村に住んでる人間じゃなくって……ゆめこちゃんのことも、今日初めて聞いたんだよね」
「そうなの?」
「うん、だから、わからなくて。ごめんね」
「そうなんだ……」

 ゆめこちゃんは、明らかにしょんぼりした様子でした。機嫌を損ねるなと言われているので、私は少し焦ります。怒っている様子ではないですが、多分悲しませるのも良くないことであるはずです。
 どうしたものかと思ってると、彼女が口を開きました。

「ゆめこのお父さんとお母さん、だいじょうぶかな。しんぱいだな。ねえ、みことちゃん。さがしてもらえる?」
「え……」
「それとね。ゆめこね。おしょうがつのおもちたべたい。おしょうがつ、お祝いしたい!だから、おもちほしいな!」
「……う、うん、わかった。じゃあ、お祖父ちゃんに頼んでみるね。えっと、ゆめこちゃん、お名前をもう一度しっかりおしえてもらえる?苗字も一緒に」

 探すというのが本当に可能かはわかりません。でも、名前をフルネームで聞かないと探しようがないのも確かです。
 私が尋ねると彼女は「えーっとね!」と言いました。

「いんがさき、ゆめこ!」
「いんがさきゆめこちゃん、だね。わかった。お祖父ちゃんに訊いてみるね」
「うん!」

 探してくれると思ったからか、彼女の声が明るくなりました。
 いんがさき、なんて苗字は聞いたことがありません。お祖父ちゃんならわかるのでしょうか。

「じゃあ、ゆめこ、ねるね。おやすみなさい!」
「うん、おやすみ」

 彼女の気配がドアの奥へ遠ざかっていきます。すると、まるでそれを察知したかのように、お祖父ちゃんが階段を上ってきました。そして言います。

「もうええで、みこと。ようがんばったな」

 お祖父ちゃんは、私を労うようにポンポンと頭を撫でました。かなりご機嫌だったと思います。
 ところが三階に降りる階段の途中で「は!?」と大きな声を出されてしまいました。私が、ゆめこちゃんと話した内容を正直に伝えた後です。

「みこと!なんちゅうやっかいなことしてくれた……!餅だけならなんとかなるだろうが、よりにもよって父親と母親を探せだなんて……!このアホが!」
「……ま、待ってお祖父ちゃん、なんで怒ってるの?」
「お前は何も知らんのやな。加美町(かみまち)村のインガサキ家。この村やったら誰もが知ってるっちゅうに。ああ、どないせえっちゅうねん……!」

 さっきまでご機嫌だったお祖父ちゃんが急にイライラし始めたのが、私はとても怖かったです。
 正直不気味な話なので何か知ってる人がいたら教えてほしいです。よろしくお願いします。