惚れちゃいけない恋なんて、

 瞬く間に、僕は有名になった。
 あの柊初彩と対等に会話している男がいると、学園中で噂になってしまった。本当にいい迷惑である。
 そうして柊初彩と関わるようになってから、数ヶ月が経過しようとしていた。
 この間、僕は彼女を無視し続けた。きっと無視を続けていたら間違いなく折れるだろうと確信をしていたからだ。……だと、いうのに。
 「好き」
 どうしてこうなった?
 これまでの期間、僕はずっとこいつを無視し続けた。多少反応する事はあっても、反応は冷たくし続けた。
 なのに、どうしてだ?気づけば僕は、こいつに惚れられていた。わからない、わからないよお母さん。女の子の気持ちが全然わからないよ……。
 「暑苦しいから頼むから腕から離れてくれないか?」
 この数ヶ月の間で、彼女との距離感は以上なまでに近付いていた。べったりするのは当たり前、何を言おうとも離れようとしない。それ故に、周りの視線があまりにも痛すぎる。男どもの嫉妬の目線があまりにも痛すぎるのだ。だからこそ、そいつらに言ってやりたい。こいつは無視をし続けたら勝手にこうなると、ただまぁ、そいつらは無視できないからこそ僕に嫉妬している。だから一生彼女から惚れられる事はないんだろうな。
 「ねぇねぇ、今日お弁当作ってきたのり食べてくれるよね?」
 「やだ、いらない。お腹が減ってない」
 「えへへっ、そういうと思ってた。だから無理やり食べさせるね!」
 そう言って弁当箱を取り出す初彩。正直言って、段々と無視をし続けるのが辛くなってきた。
 関われば関わる程、彼女はそんなヤバい奴じゃないと知ってしまったからだ。
 話せば中々に面白い奴だし、何故か世話をするのが得意だ。
 だからこそ、募っていくのは罪悪感。とてつもない罪の意識。好きにならばいいじゃないかと思う人間もいるかもしれないが、それでも僕は彼女の事を好きになりたくない。
 だって、好きになってしまったらそこら辺の奴と同じなのだから。だから僕は初彩に言った。
 「もう頼むから関わらないでくれ。本当に色々と迷惑してるんだ。お前がいることで、僕がどれだけ大変な目に遭ってるか分かっているのか?」
 これは事実だった。初彩と関わるようになってから嫌がらせをされるようになった。靴箱を荒らされるのは当然、時々机の中が地獄絵図になっていた事もあった。
 「けどそれを解決したのはどこの誰だと思っているの?」「それは、」そう、それらを全て解決したのは初彩だった。こいつは僕が見てないところで色々と動いて。その嫌がらせを気づけば無くしていた。
 彼女の行動力は異常だ?だからこそ少しだけ恐ろしいものを感じてしまう。
 「お前、僕を惚れさせるつもりだったのにどうしてこんな事になってるんだよ」
 「だって初めてなんだもん。私が話しかけても、無視するのが殆どで、未だに有象無象のような、そんな気持ち悪い視線も送ってこない。いつまでも、貴方は貴方のまま。特に変わる事もない。そんな姿が、そんな姿勢が好きになっちゃったんだよ」
 本当に、心の底から嬉しそうに言ってきた。
 「振り向かない貴方だからこそ、私は好きでいられる。こうやって、初めて恋愛をして気づいたの。
 私、追いかけるのが好きなんだって。追いかけられるのは嫌いだけど、追いかけ続けるのは好きなんだって。」
 「そうかよ、」初彩の言葉を聞いて、僕は思わず天を仰いだ。
 つまり彼女は、自分に惚れない僕という存在が好きなのだ。という事は、僕が彼女に惚れてしまったら最後。
 彼女の僕に対する気持ちはスッと冷める。だって僕が振り向いてくれたから。もう、追いかける必要が無くなるから。だから、僕が彼女に惚れた瞬間、同時に彼女は僕のことを好きじゃなくなる。僕らはそんな、妙な関係なのだ。惚れたら終わりだが、惚れられない。だから、離れて欲しい。切実に、もうどこかに行って欲しい。
 僕が、彼女を好きになる前に。さっさと僕から離れて欲しいのだ。
 そんな、僕の気持ちも知らず、初彩は僕にアプローチをし続ける。僕に誘惑をし続ける。
 あぁ、、なんて悪魔なのだろう。こんなな生き殺しだ。
 好かれているのに、僕が好きになってしまったらその恋愛は一生せいし成就しなくなってしまう。だから離れるようなことをしても、こいつは絶対に離れるような事をしない。どんな事をしても、ずっと僕の傍に居続ける。
 「えへへっ、人生に目標が出来るとこんなに嬉しいんだねっ」
 「私ね、ずっと退屈だったんだよ。恋愛なんてすると思ってなかった。誰かを好きになる事なんて絶対にないと、思ってた。この世界の男は、皆同じだって。私はそう思ってた。けど、貴方と出会って世界が変わった。
 貴方は貴方のずっと、私に惚れないでいてくれる。」
 「私にとっての"唯一無二"でいてくれるから。」
 初彩が耳元に口を近づけて言った。
 「だからさ、絶対に私のこと好きにならないでね?」