今ごろは魔王を倒しているはずだった

 俺のひいばあちゃんが死んだのは、俺が小学校一年生のときだった。
 はじめて触れた、身近な人の死。
 葬式にもちゃんと参列して、火葬場にも行ったけど、そのときは「死」というものが実感としてわかっていなかった。
 でも、そこから少しずつ、ああ、もうひいばあちゃんには会えないんだって気がついて。そのときに、俺は「死」という別れを理解したのだと思う。
 死んでしまったら、もう二度と会えないんだって。それは、すごく寂しいことなんだって。
 その寂しさも次第に薄れていったけど、でも。
 九十才まで生きたひいばあちゃんと、爽生の死を、同じかもしれないけど、同じにしちゃ駄目だろ。
 絶対に、駄目だろう。

「爽ちゃんの病院? そらわかるけど……、でも、もう面会時間過ぎとるんやない?」
 スマホの向こうから、困惑した母さんの声がする。
 あたりまえのことを言っているだけなのかもしれないけど、なんだかそののんきさに苛々としてしまいそうで。俺はスマホを強く握りしめた。
 ええから、と必死に声を抑えて促して、母さんから病院の場所を聞く。
「――なんやけど、行ける? 電話切ったら、爽ちゃんのお母さんにも一応連絡はしとくから。あと病院の住所も送るで。ちょっと待っとってな」
「うん」
 ありがとう、と告げると、俺はすぐに通話を切った。
 母さんから連絡が返ってくるまでの数分がすごく長くて。俺は新幹線を下りた東京駅のホームに、所在なく立ち尽くしていた。
 ……いまさらやけど、新幹線乗っとるうちに聞いといたらよかったんよな。
 そんなあたりまえのことも思いつかないほど、慌てていたらしい。
 その事実に気づき、俺はそっと深呼吸をした。爽生がいたら、落ち着けと言うだろうと思ったからだ。
 そうしてから、リュックの横ポケットに入れた黒猫のマスコットを取り出す。むにっと軽く指で押してみたものの、黒猫は「ただのマスコットですけど?」という顔をしていた。
 この数日、あれだけ表情豊かだったことが嘘みたいに。
 ――わからん。
 ――わからんことばっか増えてくねん。
 頭に過った爽生の声に、俺は唇を噛み締めた。
 爽生がわからんのやったら、どうしたらいいん、これ。泣きたいような気持ちで思う。泣きたいというか、迷子というか。
 なんだかすごく心細くて――、ああ、そうか、と俺は気がついた。
 この数日、俺が心の奥底で怖いと思っていても、どうしようという不安を見ぬふりをしていても。
 それでもどうにか途方に暮れずにいることができたのは、どんな姿であれ、爽生が隣にいたからだ。
 それなのに、今、爽生がいない。