コトリカゴ

 帰宅する同じ学校の生徒を多く乗せた電車に乗り、隣町の駅で下りる。まだここまでは人が多いが、これからどんどんと人里離れた場所に向かっていく。

 駐輪場に預けていた自転車を取り、それぞれの荷物をカゴに入れて、自転車を走らせる。
 最初はほとんど平坦であるが、山の中を進むにつれ坂道になってくる。急なところはさすがに自転車を漕げないので莎菜に降りてもらい、ゆっくりと押しながら登っていく。
 やがて村に近付いてくると道は穏やかになるので、そこからまたふたり乗りをして帰る。
 と言うのが俺達の帰り方だった。

 暦上では初夏になる5月。日の落ちが遅く、まだ明るさの残る時刻に、村に帰ってきた。

 ――徳里(とくざと)村。
 地名を知らせる看板を越えた先、道幅は急激に狭くなる。車1台が何とか通れるところにある、土に刺さった古びた注意勧告の立て札。

 “ 村ノ住人以外ノ人間ノ侵入ヲ禁ズル ”

 一体何年前からあるのか? 雨風に晒され年月が経った文字は、掠れ過ぎて判読すら難しくなっている。
 そして幼少からずっとある物に見慣れ、気にもならなくなってしまった立て札を通り過ぎ、その境界線を越えて村に入っていった。

 そこを通り過ぎれば、車が通るのに少し余裕のある道幅に戻る。朝通った一本道を走っていれば、畑作業をしているおばあちゃんの姿があった。

「おんや、柊雨君に莎菜ちゃん。今日もふたりで仲良しやねぇ」

松原(まつばら)のおばあちゃん、こんばんは」

 花柄の手ぬぐいをほっかむりし、腰の曲がった松原のおばあちゃんに話し掛けられて、自転車を止める。莎菜も後ろから降りて、頭を下げた。

「学校帰りか?」

「うん。そうだよ」

「そうかそうか、お疲れやなぁ」

「おばあちゃんも、もう日が暮れてくるから気を付けてね」

「せやなぁ、暗なる前に帰らんとな。そうやあんたら、玉ねぎとえんどう豆持って帰りぃ」

 そう言って、今収穫したばかりの野菜を入れたカゴを渡される。中には5個の玉ねぎと、ビニール袋に入った大量のえんどう豆があった。

「こんなにたくさん。おばあちゃんは食べないの?」

「私の家にはもういっぱいあってな、ひとりでは食べ切れへんのや。でも取らんと、腐らすんはもったいないやろ」

「それはそうだね」

 莎菜が答えて、俺と顔を合わす。うんと頷いてから、お礼を言った。

「おばあちゃん、ありがとう。有り難くいただきます」

「おかあちゃんに豆ご飯でも炊いてもらいー」

「うん」

 松原のおばあちゃんのご厚意を頂いて、改めてお礼を言って歩き出す。カゴを持ちながら運転は出来ないので、重い物は俺が持つことにした。
 自転車は莎菜に持ってもらい、再び帰り道に就いた。